どうか縛らないでください|アマノ文筆クラブ
古本屋で働き始めて三ヶ月。
店主の田村さんは、ちょっと変わっている。
「本は縛らないでください」
買い取った本を整理する時、私はつい紐で束ねようとする。
その度に、田村さんが止める。
「どうしてですか?」
初めて訊いた時、田村さんは答えた。
「本はあなたと同じで生きているんです。縛られたらあなたも痛いでしょ?」
「生きている?」
「物理的には、背表紙が歪むし、ページが曲がる。なにより」
田村さんは一冊を取り上げると表紙を優しく撫でた。
「本は、自由でいたいんです」
私はここで働き始めたことを後悔した。
でも、そのうちに、少しずつ分かってきた。
田村さんは、本を愛おしく思っている。一冊一冊、丁寧に扱う。
「この本、誰かが大切にしていたんですよ」
田村さんが言った。
古い文庫本。カバーは擦り切れているけれど、確かにページは綺麗だ。
「どうして分かるんですか?」
「書き込みどころか、折り目がないでしょ。けれども開き具合から何度も読んだことが分かります。」
私は改めてその本を見た。
「本は、縛られたくない。大切にされたいんです」
田村さんは微笑んだ。
「誰だって、そうじゃないですか?」
その言葉に、私は両親と友人の顔を思い浮かべた。そして恋人のことを。
「田村さん」
「はい?」
「私も、縛られたくないです。でも、ここで働いていたいです」
田村さんは笑った。
「それでいいんですよ。自由にしてください。一緒に働けて私も嬉しいです」
今日も私は、本を一冊ずつ並べる。
大切にするからこそ縛らない。
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