色眼鏡|アマノ文筆クラブ
人づきあいが苦手だ。
「この人は苦手だ」と一度思うと、その人の何もかもが嫌になる。
こちらがそんな風だからか、皆、僕からは一定の距離を置いているようだ。
だからガールフレンドもいない。
そんな僕が、モニターに選ばれた。
新開発の「カラードレンズ」。カラコンではない。
かけると、相手の欠点が目立たなくなり、長所が輝いて見えるという。
コンタクトタイプ。透明で、つけていることも忘れるほど自然、という触れ込みだ。
半信半疑で、使いはじめた。
効果は、劇的だった。
満員電車で足を踏まれても、腹が立たない。
嫌味な上司の小言も、親身に聞こえる。
世界が、やわらかくなった。
これで、都会生活がもっと過ごしやすくなる。
そして、彼女に会った。
中途採用で同じ部署に入ってきた。
何事にも一生懸命な姿が、いじらしい。
カラードレンズのおかげで、彼女とは普通に会話が続いた。
その日、彼女は少し疲れた顔をしていた。
前髪が乱れて、目の下に隈があった。声もかすれていた。
かわいい、と思った。
疲れた顔も、かすれた声も、乱れた前髪も、全部、いとおしかった。
——これはいわば、カラードレンズの副作用だ。
使い続けていると、中毒症状が出るのだな。
モニター報告書に書かなければ。
コンタクトを外そうと、指を、目にやった。
指が、眼球に直接触れた。
甘野充さんの、アマノ文筆クラブに参加します。
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