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夕暮れの駅ピアノ|3つのお題に空想のひらめきを

夕暮れの駅のホーム。そのピアノは誰かを待っているかのようだった。

いつからここに置いてあるのだろう。何度もこの駅を使っているのに、気づいたのは今日が初めてだった。
黒いピアノの白い鍵盤が夕日に照らされている。

小学校の頃、私はピアノを習っていた。母に無理を言って始めたのに、中学に入ると弾くのを止めてしまった。部活が忙しいと言い訳をして。
「もったいないことをしたね」母はよくそう言っていた。

恐る恐るピアノに近づいて、鍵盤に触れてみる。思っていたよりタッチが軽い。

軽く椅子に腰かけて右手を置くと、自然と指が動いた。『エリーゼのために』の冒頭部分。間違えはしたけれど、音は確かに鳴った。

私は自分に才能がないことに、中学の時に気づいていた。

ホームにいた数人が振り返るのが分かった。恥ずかしくなって手を引っ込めかけたとき、隣に人の気配がした。

「続きを聞かせてください」と優しい声が言った。
私は振り返らずに小さく頷いて、冒頭部分をもう一度弾いた。今度は少し上手くいった。

もう一度。
弾き始めた目の端に女性の左手が見えた。私の旋律に合わせて、低音部で伴奏を加えてくれている。
夕日と思い出に包まれて、私たちは曲の最後まで弾き終えた。

「ありがとうございました」私はそうつぶやいたが答えはなかった。

駅のアナウンス。電車に乗り降りをする人のざわめき。発車のベル。
私はまだピアノの前に座っていた。

沈みかけた夕日で、ホームがオレンジ色に染まっている。

電車が走り去った後の束の間の静寂。

私は椅子に腰かけなおすと、両手で弾き始めた。





片桐みかんさんの企画に参加させていただいています。

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