あの午後の自分|恋人になれない|シロクマ文芸部
忘れたい、といえば嘘になる。 決して忘れたくないのだけれど、思い出すたびに胸がうずく。
二年前。紅葉が散り始めた午後。彼が「好きだ」と言ってくれた。
「ありがとう。でも、私には無理」
なぜあんなことを言ったのだろう。自分でも分からない。風に舞う葉が美しすぎたのかもしれない。
彼のことは好きだった。一緒にいて楽しかった。 けれど、その時の私は怯えていた。関係が変わって、幸せを夢見てしまうことに。
彼は「分かった」と小さく頷いた。そのあと二人は普段と同じように他愛のない話を続けた。 もちろん二人とも普段と同じではなかった。せめて同じだと思っていたかった。
その日以来、彼とは疎遠になった。職場でも必要最小限の会話しかしなくなった。 半年後、彼は転職した。送別会で「元気でね」と声をかけた時、彼は微笑んでくれたけれど、以前のような笑顔ではなかった。
もし私があの時、「私も、あなたのことが好き」そう言っていたら、二人は今頃どうなっていただろう。 忘れたいのは、彼の告白。自分の答え。彼の困ったような表情、紅葉が舞った空の色。
あの日の午後だけを消し去ることができるなら、彼のことを、自分自身の思いをずっと胸に抱いていたい。今の自分がどうであろうと。
また同じ季節がやってくる。
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