見出し画像

手帳|風まかせ文芸部

去年の手帳 季節外れの大掃除をしていたら、去年の手帳が出てきた。

思いがけず一年前の自分と再会する。会議、締切、出張。数々の実務的なスケジュールの合間に、意図を込めた予定が書いてある。 友人との飲み会、デート、父母への感謝。

三月の欄には「桜を見に行く」と書いてあるけれど、実際には行かなった。雨の多い春だった。予定していた日にも家で映画を見て過ごしたことは、手帳には残っていない。 五月の「母の日」の文字の横には、小さなハートマークが描いてある。カーネーションを贈るつもりでいたけれど、手配を忘れて結局電話をかけただけだった。それでも母は、おしゃべりを楽しんでいるようだった。それは今でも覚えている。

手帳に書いてあることと、実際に起こったことは、ずいぶん違う。 思い通りにいかなかった出来事は、手帳よりも私の中に残っている。 半分を過ぎた今年の手帳には、去年と同じ。スケジュールとささやかな決意が並んでいる。

来年、この手帳を見返した時にも、いくつもの後悔と少しだけの満足を知るのだろう。 書かれていないこと、書けなかったことの方が大切だったとまた思うのだろう。

きっと私は手帳の使い方が下手なのだろう。 それでも手帳を使い続けるのは、みずから生まれた希望を書き留めておきたいからかもしれない。 実現してもしなくても、その時の気持ちに嘘はない。

手帳の空白のページは、何を待っているのだろう。 今度はどんな「書かれていないこと」に私は出会うのだろうか。





スキ・フォロー・コメントなど頂けると励みになります。


#風まかせ文芸部 #手帳 #共創 #ショートショート #私の作品紹介 #スキしてみて



いいなと思ったら応援しよう!