シャボン玉➁|シロクマ文芸部
シャボン玉は、弾けなかった。
アスファルトの照り返しが厳しい、夏。
都会の真ん中。昼休み。
ネクタイを緩めてベンチに座っていた俺の目の前に、ふわふわとそれは現れた。
思わず手を伸ばした俺の人差し指に、その球体は静かに着陸した。
虹色の膜が、ゆっくりと波打っている。
そこに映っていたのは、灰色のビル街ではなかった。
もっと鮮やかで、どこか懐かしい景色。
そして父と泥だらけになって作った、不格好な泥団子。
そうだ。
仕事に追われ、数字に追われ、すっかり忘れていた。
あの頃の、純粋に何かを作り出す楽しさを。
二人の泥にまみれた手を。
「……親父」
俺が声を漏らした瞬間、そのシャボン玉は役目を終えたかのように、音もなく消えた。
指先に残ったのは、微かな石鹸の匂いと、確かな温もり。
俺はネクタイを締め直すと、ベンチから立ち上がった。
午後からのプレゼン、悩むのはやめだ。
不格好でいい。それが俺だ。
小牧幸助さんのシロクマ文芸部に参加します。
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