真夜中のバス停|3つのお題に空想のひらめきを
午前一時を過ぎた真夜中のバス停。私は独り立ち止まった。
最後のバスはとっくに出た。次のバスなど来ない。
飲み会で遅くなり、終電でたどり着いた駅。タクシー乗り場には人の列ができている。
諦めて歩き出したところだった。
ずっと昔、故郷のバス停で同じように深夜に立っていたことがある。
私はあの街から早く逃げ出したいと思っていた。
バスに乗って都会に行けば、人生が変わる。そう信じていた。
ようやく上京して何年かして分かったのは、東京は華やかなだけの街だということだった。
「まだ、待っているんですか」
声がして、振り向いた。
白いワンピースを着た女性が、ベンチに座っていた。いつからそこにいたのか分からない。街灯の明かりが、彼女の輪郭を柔らかく照らしていた。
「もう、バスは来ないですよね」
私は訊いた。女性は微笑んで、ゆっくりと頷いた。
「来ないって、分かってるんです。でも」
言いよどんだ私に女性は応えず、代わりに夜空を見上げた。私もつられて見上げる。街の明かりに薄れた星がいくつか見えた。二人はそのまま黙った。
やがて遠くに車のヘッドライトが見えた。こちらに近づいてくる。女性はそちらへ歩き出した。車が彼女の前で止まった。
「お気をつけて」
彼女の後姿に私は声をかけた。女性は振り返って、もう一度微笑んだ。
車が去るのを見送って、私もバス停を後にした。
アパートへの帰り道、ポケットに手を入れると、指先に触れるものがあった。取り出してみると、それは古いバスの回数券だった。
いつかまたこれを使うのかもしれない。
そう呟いて私は歩き続けた。
片桐みかんさんの企画に参加させていただいています。
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