億年の記憶丨せりふ三題噺
図書館の窓から、すすきを見ていた。
手の中には古生物学の本。すすきの穂は風に揺れ、まるで波のように見える。私はその風景をぼんやりと眺めていた。
何億年も前の海の底で生まれた生物の話が、この本には載っている。三葉虫、アンモナイト、名前も知らない小さな生き物たちの化石。
彼らは思いもしなかっただろう。何億年後かに、自分たちが誰かに思いを馳せられることを。
すすきの向こうに、あの人の姿が重なった。
三年前の秋、彼はこの図書館で初めて話しかけてくれた。大学の地質学科に入りたいのだ、地球の歴史は石ころからでも読み取ることができるのだと言った。
「この石は何万年も前の海の記憶を持っているんだよ」
そう言って手渡してくれた小さな化石。その時の優しい笑顔。
そのあと彼は転校し、連絡も途絶えた。 化石達が過ごした何億年という時間に比べれば、三年なんて一瞬にも満たない。けれど私にとっては、とても長い時間。
ページをめくる。カンブリア紀の生物たちが、静かに私を見つめる。 彼らも、恋をし、別れを惜しんでいたのだろうか。何億年も前の海の中で。
すすきが風に揺れている。 私が卒業していなくなっても、この図書館がなくなっても、すすきは揺れ続けるのだろう。
何億年かの後に誰かが、今日の私のことを思い浮かべることがあるだろうか。
本を閉じて、もう一度窓の外を見る。
億年の記憶を抱いたすすきの穂は、夕日に照らされて、金色に光っている。
はらとけいさんのせりふ三題噺に参加させていただいています。
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