Trick or ??|ショートショート
ハロウィンにその家の前で呪文を唱えると、毎年違う言葉が返ってくる。
初めて行ったのは七歳の時だった。友達と一緒に、仮装をして町を回っていた。古びたその洋館の前で、誰かが言った。
「この家、変な言葉が返ってくるらしいよ」
好奇心に駆られて、私たちは門をくぐった。玄関のドアをノックすると、白髪の老婦人が現れた。
「Trick or ??」
友達が言った。老婦人は微笑んで、ゆっくりと答えた。
「Dream」
私たちは顔を見合わせた。老婦人は優しく、小さなキャンディーを手渡してくれた。
翌年、私は一人でその家を訪ねた。
「Trick or ??」
老婦人は前の年と同じように微笑んだ。
「Tomorrow」
帰り道、その言葉の意味を考えた。
何のことだろう?いたずらではなくて、夢、明日…?。
それから毎年、私はその家を訪ねた。
九歳の年は「Courage」だった。十歳は「Memory」。十一歳は「Light」。勇気、思い出、光...??
中学生になると、友達はみんなハロウィンに興味を失った。それでも私は、一人でその家に行った。老婦人はいつも変わらずに微笑んで、お菓子の前に新しい言葉をくれた。
高校三年の秋、私はまだ進路に迷っていた。やりたいことが分からないまま、ハロウィンの夜、私はその家を訪ねた。
「Trick or ??」
老婦人は少し痩せたように見えた。けれど微笑みは変わらなかった。
「Wait」
待つ——その言葉を聞いて、胸が軽くなった。焦らなくていい。そう言われた気がした。
やがて私は東京で大学生になった。自分がやりたいことが少しずつ分かってきた。代わりに二年間、あの家を訪れることはなかった。
今年のハロウィン。久しぶりに帰省して、あの家を訪ねた。
玄関のドアをノックしたが、誰も出てこない。もう一度ノックする。それでも返事はない。
諦めかけた時、隣の家の人が声をかけてきた。
「その家のおばあさんなら、春に亡くなったよ」
息が止まった。
「でもね」
その人は続けた。
「最後に、頼まれたんだ。ハロウィンに尋ねてくる人がいるはずだからこれを渡して欲しいって」
手渡された封筒の中のカードには、一言だけ書かれていた。
「Thank you」
その言葉を見て、涙が溢れた。
老婦人が返してくれた言葉は、すべてが私への贈り物だったのだ。
帰り道、暮れかけた秋の空に心の中で呟いた。
「Trick or ??」
風が吹いて、どこからか優しい声が聞こえた。
「Go」
花邑 灯火さんのお題に参加させていただきます。
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