大人になるということ|3つのお題に空想のひらめきを
「成人式どうだった?」 母が聞いた。
「寒かった」 コートを脱ぎながら私は短く答えた。
「そういう意味じゃなくてね」 母は苦笑した。
「別に」 そう私は返した。
本当は、もっと色々あった。
久しぶりに会った友達。
変わってない子、変わった子。
みんな大人っぽく見えて、でも話せば昔のまま。
けれども、うまく言葉にできなかった。
「そこに座って。あなたに渡すものがあるの」
コーヒーを淹れながら母が言った。
「何?」
母から受け取った小箱を開けると、木の指輪が入っていた。
削り出しただけのような、素朴な作りの指輪。
でも、丁寧に磨かれている。
「あなたが成人したら渡すようにって、おばあちゃんから預かってたの」 「これ、何?」
「お祖父ちゃんが、お祖母ちゃんにあげた指輪よ。手作りなんだって。」
祖父は、若い頃大工だったと聞いたことがある。
手先の器用な人だった。細やかな心遣いの人だった。
「もらったときは、嬉しくて涙が出たっておばあちゃんは言ってたわ。
後にも先にもあんな素敵なプレゼントはなかった、って」
「でもお祖母ちゃんが付けてるのみたことないよ」
訝しがる私に母は言った。
「木だから、水に弱いでしょう?
家事をするたびに外さなきゃいけなくて。
それでも、お祖母ちゃんはずっと大事にしてた」
「お祖母ちゃん、言ってたわ。
『あの人は、私のために何日もかけて指輪を削ってくれたんだ』って」
私は指輪を手に取った。
金属の指輪とは、全然違う。
軽い。でも、独特のぬくもりがあった。
私は成人式で見た友達のアクセサリーを思い出した。
キラキラと光る、高価な指輪やネックレス。
親からもらったのだろうか。ボーイフレンドからのプレゼントだろうか。
羨ましくなかったと言えば嘘になる。
この木の指輪は光らない。
地味で、朽ちやすく、脆いだろう。
けれど祖父と祖母の二人にとっては、
金よりも、ダイヤよりも、大切なものだっただろう。
「これ、もらっていいの?」私は聞いた。
「お祖父ちゃんも、喜ぶと思うわ」
私は指輪を、自分の小指にはめてみた。
あつらえたかのようにぴったりだった。
まるで、最初から私のために作られていたみたいだ。
窓からの光に手をかざしてみた。
差し込む冬の日差しが、指輪を照らす。
木の温もりが、光に溶けていくようだった。
祖父が祖母のために、削った木の指輪。
二人の愛の証。
私もいつか、誰かのために、何かを作るだろうか。
祖父のように。
受け取った真心を生涯大事にするだろうか。
祖母のように。
今の私はまだこの指輪に相応しくない。
誰かの前でこの指輪をする日が、いつか来るだろうか。
私は指輪を小箱に戻した。
祖父と祖母の、物語と一緒に。
片桐 みかん さんの3つのお題に空想のひらめきを、に参加致します。3つのお題の中から、「木の指輪」を使わせていただきました。
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