届かない想い|シロクマ文芸部
透明な壁が、私と彼の間にある。
彼の存在はまぶしくて、輝いてさえみえるのに、私には触れることができない。手を伸ばしてみても届かない。
教室の窓際の席で、いつものように彼は本を読んでいる。陽だまりの中で微笑んでいる姿は、まるで別世界の人のようだ。
私は廊下から、その姿をそっと見つめている。
一年前の春、彼が転校してきた日のことをありありと思い出す。自己紹介の時、教室がざわめいた。背が高くて、どこか大人びていて。彼は私たちとは違う空気をまとっていた。
「よろしくお願いします」
彼の声は思ったより優しかった。何も拒んではいないように思えた。けれど、その時既に何かが私たちを隔てていた。
他のクラスメートたちは普通に彼に話しかけていく。質問をしたり、一緒に昼食を食べたり。いつも私は遠くから見ているだけ。
話しかけようと思ったことは何度もある。でも、いざ近づこうとすると、そこには透明な壁があった。
図書室で同じ本を手に取りそうになった時も、狭い廊下ですれ違った時も、私はそっと身を引いてしまった。
そんなことに彼は気づきもしなかっただろう。
恥ずかしいからだけではない。自分を知られてしまったら、彼を間近に感じてしまったら、それは始まりではなく、終わりであるような気がした。
放課後の教室で、彼が席を立つ。私は慌てて隠れる。
透明な壁の向こうを、彼はゆっくりと歩いていく。
私は消え入りたい思いの中、彼の後姿をずっと見つめていた。
