家族│恋が始まる7つのレシピ④
初夏の朝、慣れない散歩コース。
引っ越してきて一週間。ダンディも私も、まだこの街に馴染めずにいる。
「ダンディ、今日も頑張りましょうね」
ゴールデンレトリバーのダンディは、母と二人暮らしの私にとって大切な家族。なぜか散歩の時だけ人懐っこくなる。普段は大人しいのに、外に出ると突然元気になってしまう。
公園の入り口で、柴犬を連れた男性とすれ違いかけた。
案の定、ダンディが尻尾を振りながら近づいていく。
「あ、ダンディ、だめよ」
私は慌てて止めようとしたが、ダンディは人懐っこく男性の足元まで行ってしまった。相手の犬は飼い主の後ろに隠れている。
「すみません、うちの子、人懐っこすぎて」
私は緊張して頭を下げた。
「いえいえ、可愛いですね。ダンディくん、って言うんですか?」
男性は優しい声で答えてくれた。
「はい。この子、散歩のときだけ元気になるんです」
(良かった。怒ってはいないようだ)
「普段はおとなしいんですけど、外に出ると別人ならぬ別犬で」
「うちとは逆ですね。ベルは家では元気なんですが、外に出ると僕の後ろに隠れちゃうんです」
彼は微笑んだ。
二人して立ち止まって、愛犬たちを見つめる。朝の公園は静かだ。
ダンディがベルの鼻先に自分の鼻を近づけている。最初戸惑っていたベルが、やがて恐る恐る匂いを嗅ぎ始めた。
「あら、ベルちゃんが自分から」
「珍しいんです。いつものベルなら、もっと警戒するはずなのに」
彼は驚いた様子だ。
「ダンディも珍しく落ち着いてます」
「お互い、相性がいいのかもしれませんね」
「そうですね。ダンディ、良いお友達ができたわね」
じゃれあう犬たちを見守りながら、私はふと口に出してしまった。
「実は、仕事が忙しくて、ダンディとの時間が取れないんです。今朝も母に『ちゃんと散歩に連れて行きなさい』って叱られちゃいました」
普段なら、自分からこんな話はしないのに。彼の優しい口調につられたのかもしれない。
「お母さんもダンディのことを心配してくれているんですね」
「家族ですから」
そう答えながら、自分の頬が緩むのがわかる。
「僕も母に『ベルの散歩、ちゃんとしてる?』ってよく聞かれます。父が単身赴任なんで、余計に気になるみたいで」
「ベルちゃんを大切にされているのは見れば分かります」
犬たちはまだ鼻を寄せ合っている。ダンディはもちろん、ベルちゃんもリラックスした表情だ。青葉を渡る風が頬に涼しい。
「毎日、同じ時間に散歩されているんですか?」
彼が尋ねた。
軽く息を吸ってから私は答えた。
「ええ、最近引っ越してきたんですけど、だいたいこの時間です」
「それじゃあ、また会えそうですね」
「そうですね、またお会いしましょう」
別れたあと、ダンディが振り返ってベルちゃんを見た。
私も思わず振り返ると、彼とベルちゃんがまだそこにいた。
「ダンディ、気になるの?」
私は愛犬の頭を撫でながら呟いた。
家族って、不思議だ。血のつながりだけじゃない、大切な存在。そして時には、その大切な存在が、新しい出会いを運んでくれることもある。
翌朝、私はいつもより少し早めに支度を済ませて、散歩に出かけた。
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