コーヒー、飲めません|青ブラ文学部
新入社員との座談会。
「昼間だからビールというわけにはいかないが、コーヒーでも飲みながら話そう」と言って、部長が全員分のコーヒーを注文した。
「無礼講だから、自由に話してくれ」
「あえて言わせてもらいますが、私はコーヒーが苦手なんです」
私はそう言おうと思ったが、実際には何も言えなかった。
苦いものが苦手だ。子どもの頃からずっと。
けれど大人になったらコーヒーは飲めるようになると思っていた。
実際、多くの友人はそうだったという。
でも私は、四十歳を過ぎた今でも飲めない。無理して飲みほすと胃が痛むような気さえする。
「コーヒーでよろしいですか?」
クライアントとの打ち合わせで良く訊かれる。
「はい」と答えて、出されたコーヒーを一口だけ飲む。
作り笑顔で「美味しいですね」と言う。
カフェで友人と会う。
「何にする?」と訊かれて、「カフェラテで」と答える。
ミルクで薄めれば、何とか飲める。
あえて言おう。私はコーヒーが苦手だ。
高校生になった娘が、ある日、リビングでぽつりと言った。
「お母さん、私、コーヒー飲めない」
「そう」と私は答えた。
「大人になったら飲めるようになるのかな?」
「飲めなくても、いいのよ」 私は言った。
「でも」
「実はお母さんも、コーヒーが苦手なの」
娘は目を丸くした。
「だって、お母さん、いつも飲んでるじゃん」
「無理して飲んでたの。本当は紅茶が好き」
娘は笑った。
その日から、我が家には紅茶のポットが並ぶようになった。
コーヒーが苦手でも、本当は何も困らない。
(不便な時もあるけれど)
大切なのは、好きなものを好きだと言えることだ。
小さな勇気、ささやかな意地かもしれないけれど、娘にはそう考えられようになって欲しい。
山根あきら さんの青ブラ文学部に参加させていただきます。
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