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あざとい彼|片想い文芸部

「お疲れさま。悪いね、残業付き合わせちゃって」

彼の手には二人分のコーヒー。受け取るときに指先が触れ、思わずドキドキしてしまう。

「ありがとうございます」

「いや、僕が飲みたかったから」

何もしなくても周囲から愛される人がいる。この人はその典型だ。

「今度食事をおごるからもう少し頼むよ」

「はい」

私は精一杯の笑顔を返した。


「昨日、あの人と残業だったんでしょ?」

同僚の女子同士のランチでそう聞かれた。

「え、ええ。コーヒーをもらって」

「あの人、気をつけた方がいいよ」

彼女の表情が急に真剣になった。

「え?」

「あの人って、あざといの。女の子みんなに優しくするから、勘違いしちゃう人多いの。プレイボーイなのよ」

そう。彼に計算があろうとなかろうと、私なんかが釣り合うわけがない。

「そうなの...?」

そう聞き返しながら彼女をみた。彼女の頬が赤い。

「だから、変な期待しない方がいいよ」

ああ、そうか。彼女も彼が好きなんだ。

このアドバイスは、彼女なりの計算。

そう思うのは、心の奥では彼女の言葉を信じたくないだけなのかもしれない。

あの人の優しい笑顔。時折見せてくれる気遣い。あれは、みんなにしていることなのだろうか。


「おはよう」

翌朝、彼が声をかけてくれた。私だけじゃなく、周りの人たちにも。

でも、それでも。

彼の笑顔を見ていると、やっぱり胸がときめいてしまう。

あざといのが本当だとしても、計算だと分かっていても、いつか私だけの特別になれたらいいのに。

あざとい生き方をしてみたい、ふとそう思った。






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