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結婚の条件|恋人になれない

「結婚を前提にお付き合いしませんか」

ホテルのカフェ。向かい側には彼。真剣で誠実そうな眼差し。
マッチングアプリで知り合って三ヶ月。年収、学歴、価値観、私が入力した条件にぴったりの男性だった。

真面目で誠実で、将来を真剣に考えてくれる人。母も「いい人じゃない」と太鼓判を押した。断る理由がない。

それなのに私は言った。
「もう少し時間をください」

彼の表情が少し曇る。当然だろう。三十歳を過ぎた私たちに、そんなに時間があるわけではない。

家に帰って、スマートフォンのアプリを眺める。

私がこのアプリを使い始めたのは、友人の結婚ラッシュがきっかけだった。
「案外いい人がいるわよ。何より効率的だし」そう言われて、半信半疑で登録した。

入力画面で、私は自分が何を求めているのかを数値化していった。年収、身長、学歴、趣味。まるで買い物リストのようだ。

そして現れたのが、今の彼だった。

彼とのデートは心地よかった。会話も弾むし、気遣いもしてくれる。手をつながれるのは嫌ではなかった。でも、特別な感情は湧かない。
「これが大人の恋愛なのだろう」そう自分に言い聞かせた。学生時代とはもう違うのだ。

でも、本当にそうなのだろうか。
私がこのアプリに求めていたのは、何だったのだろう。

翌日、彼に電話をした。

「申し訳ありませんが、やはりお断りします」
「理由を聞かせてもらえますか」

理由。それを言葉にするのは難しかった。

「あなたには何の問題もありません。希望した条件に合った方だと思います。でも、結婚に必要なものは条件だけではないと思うようになりました。」

「それは何ですか」
「もっとドキドキしたいんです」

電話の向こうで、彼が小さくため息をついた。
「それは、恋愛ドラマの見すぎですよ」

彼の言葉は正しい。現実的で、大人で、合理的だった。
それでも、私は認めたくなかった。

条件だけで選んだ相手との結婚が、自分を幸せにしてくれるとは思えなかった。

アプリを削除しながら、私は思った。

私が本当に求めていたのは、結婚ではなかったようだ。計算された恋愛でもない。

自分の心が動く瞬間。それを見つけるまで、私は誰の恋人にもなれない。





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