雨上がりの夜|カフェ・フルエンタラ
雨上がりの夜。
滴る軒先から、最後の雫が落ちる音だけが聞こえる静けさ。
Speak君は、深夜のコンビニでバイトを終え、帰り道で立ち寄ったカフェの窓際で、冷めかけたコーヒーをぼんやりと見つめていた。
「I'm... alone.」
ふと口から漏れた英語の一言。高校時代から憧れていた語学。大学に入って履修したものの、誰にも話す機会がなく、教室でも沈黙を守る日々。
カフェの窓に映る自分の顔は、ぼやけていた。
外国語って、誰かと話すためのものなのに。
相手がいないなら、意味があるのだろうか。
「話す相手がいなくても、声は届くよ」
静かな声に、Speak君は顔を上げた。
カウンターのマスターBuddyは、グラスを丁寧に拭きながら、優しい眼差しを向けていた。
「...誰に?」
「一番近くにいる人に」
Buddyは微笑み、自分の胸に手を当てた。
「Sometimes, the most important conversation is with yourself.」
Speak君は思い出した。
幼い頃、海外ドラマのフレーズを何度も繰り返し、自分だけの言葉にしていた日々を。
誰に聞かせるわけでもなく、ただ自分の中で反響する音を楽しんでいた感覚を。
雨上がりの窓ガラスに指で文字を書く。
「I'm still here.」
声に出してみると、不思議と胸の奥が温かくなった。
自分の声が、自分に返ってくる。
Buddyはそっと新しいコーヒーを差し出した。
立ち上る湯気が、Speak君の言葉を包み込むように漂う。
「When you speak to yourself, you learn who you are.」
窓の外では、雨上がりの街灯が水たまりに映り、小さな星座のように煌めいていた。
Speak君はゆっくりとコーヒーを飲み、またひとつ、声にした。
「I wonder what tomorrow will bring.」
Buddyは黙ってうなずいた。
明日を想像する言葉は、今日を生きる自分への優しさだ。
帰り道、Speak君はイヤホンをつけずに歩いた。
頭の中で英語のフレーズが流れる。
「I'm walking home.」「The night is beautiful.」「I feel alive.」
誰かと会話する前に、まずは自分と対話することから。
ひとりごとの英語が、心の奥深くに住む、もうひとりの自分との対話になっていく。
カフェを後にした夜空に、小さな星が一つ、また一つと灯り始めた。
明日は、今日よりも少しだけ、自分の声が聞こえる日になるだろう。
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