せめて、笑顔を|ひとりじゃない|虹色創作部
夏休み最後の帰省。新幹線の切符を買おうとして、私はまだ躊躇していた。
手土産を何にしようか迷ったけれど、結局何も買えなかった。息子の夏期講習代と私の通院費で、今月の家計は既に赤字だった。デパートの包装された菓子折りなど、とても手が出ない。切符代さえも辛かった。
「ママ、おじいちゃんとおばあちゃんに会えるんだね」
息子の弾んだ声に、胸が痛んだ。この子は何も知らない。私たちがどれだけ実家に迷惑をかけているか、両親がどれだけ心配しているか。
電車の中で息子が眠ってしまうと、私の不安は大きくなった。
母はいつも「気にしないで」と言ってくれる。でも、娘が離婚して、孫を連れて帰ってくる。厳格な父以上に複雑な思いでいるに違いない。
実家の最寄り駅に着くと、父が迎えに来ていた。
せめて笑ってお礼を言おうと私は思っていた。
「お疲れさん。暑かっただろう」
父の意外な優しい言葉に、涙が出そうになった。
家に着いた。玄関で待っていた母の顔は、孫を見るなり、ぱっと明るくなった。
「ゆうちゃん、大きくなったね」
息子は恥ずかしそうに笑いながら、母に抱きついた。その時の母の顔を私は忘れることはないだろう。
夕食の時、息子は学校での出来事を一生懸命話している。両親は嬉しそうに聞いてくれている。
手土産すら持参できなかった後悔は、まだ私の心のどこかにあった。
帰ってきてよかったのかな。
(お父さん、お母さん・・・、ごめんね)
「今度の運動会、見に来てもらえるの?」
「もちろん!楽しみだね」
息子と両親のそんなやりとりを見ていて、私は少しずつわかったことがあった。
帰ってきて良かった。手土産なんていらなかった。
二人は何より喜んでくれている。息子の笑顔は、私にも両親にも一番の宝物だった。
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