祈ることしかできないけれど|ひとりじゃない|シロクマ文芸部
今日も深夜を過ぎた。息子の部屋からは、かすかに鉛筆の音が聞こえてくる。
大学受験まで、あと一週間。
私にできることは、何もない。せめてもと思って夜食をドアの外に置いた。
「頑張って」とは言えない。それはあまりに無責任だ。プレッシャーになってはいけない。集中を妨げてはいけない。
シングルマザーの私には、高い塾代を払ってやることはできなかった。参考書は、息子が自分でアルバイトして買っていた。どうしてこんなことになってしまったんだろう。こういうときは離婚という決断をした自分を罰したくなる。
他のお母さんたちは「予備校はあそこが良いみたいよ」「特別講習に申し込んできたわ」などといつも話している。私はただ黙って聞いている。
そんな時、息子は何も文句を言わない。「大丈夫だよ。何とかするから」と逆に私を励ましてくれる。
でも、もっと何かしてあげられることがあったのかもしれない。
しばらくして夜食の食器を下げに行くと、きれいに食べ終わっていた。
台所で食器を洗いながら、私は考えている。
試験までに体調を崩さないだろうか。実力を発揮できるだろうか。電車が遅れたりしないだろうか。
考えるだけで、何の助けもできない自分がもどかしい。
これまで十分なことはしてあげていないけれど、それでも息子の幸せを願う気持ちだけは誰にも負けない。
息子が台所にやってきた。
「そろそろ寝るね。毎日美味しい夜食をありがとう。お母さんも早く寝て。」
照れ屋の息子が、珍しくそんなことを言う。
優しい人に育ってくれた。そう思うと込み上げるものがある。
母親を労わってくれる息子、たいしたことはできない私。
これもひとつの家族の形なのかもしれない。もたれ合いではない、支え合い。お金には代えられないものを少しは息子に与えることができているのだろうか。
祈ることしかできないけれど、愛している。
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