暑中見舞い|恋が始まる7つのレシピ⑥
世の中に暑中見舞いというものがあることを知ったのは小学校6年生の時だった。
当時の私は読書感想文は苦手だったし、たまには祖父母に手紙を書くように母親から言われても、何を書いてよいか分からなかった。
そんな時に、暑中見舞いを知った。年賀状ほど儀礼的ではなく、何を書いてもよいところが気に入った。もちろん正しくは、一言添えるとか、書くべきことや書かない方がよいことなどがあるのだろうけれど、そんなことはどうでもよかった。
暑中見舞いという大人の世界があることを知ったことで私は得意になっていた。同年代の女の子たちより、多分私は、少しだけませていた。そして、暑中見舞いにかこつけて気になる男の子に手紙を出すことを思いついた。
何を書いたかまではもう覚えていない。でも面倒くさがりの私が、下書きまでして、文章を考え、字の練習までしてハガキを書いたことを覚えている。
時の流れは速い。もうすぐあれから二十年になる。
近頃はメールやSNSに頼りきり、手紙を書くことはほとんどない。
今日は、先月退職した同期の男性からのメールが届いた。同期入社は男女合わせて10人ほど。不思議と皆、仲がよかった。けれどそれぞれの理由で会社を去っていった。
彼と私は残された二人だった。彼は、地元に戻り、家業を継ぐのだそうだ。近くにお寄りの節は声をかけてください、という文面の後ろに、「P.S.また一緒に飲もう」と書かれていた。
愚痴や夢だけではなく、彼には何でも話すことができた。けれど自分の気持ちだけは最後まで打ち明けられなかった。
返信を打ちかけてやめた私は久しぶりに万年筆を取り出し、下書き用の便箋に書き始めた。
「暑中お見舞い申し上げます」
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