ずれていく|風まかせ文芸部
彼との関係は恋愛ドラマのようだった。 告白。口論。嫉妬。仲直り。 デートで他愛のない話をしたり、夢を語り合ったりするのは楽しかった。
初めて小さな違和感を感じたのは、付き合って半年が過ぎた頃。
最初は些細なことだった。レストランで店員に苦情を言う彼。「サービス業なんだから当然でしょ」と言う言葉に、口の中に苦さを覚えた。
電車で老人に席を譲ろうとした私を止めて「君が疲れているんだから座っていればいい」と言った彼。それを私への優しさだと思おうとしたけれど、どこか引っかかった。
不安を漏らすと友人たちは言う。「いい人じゃない」「贅沢言い過ぎよ」 確かに彼は条件的には申し分ない。高学歴、高収入、高身長だ。彼との付き合いを両親も喜んでいる。 けれど、しっくりしない思いは消えるどころかだんだんと強くなった。
ある日、彼が言った。 「君の仕事は君には向いていない。結婚したら辞めた方がいい」 その時、私は気づいた。
違和感の正体は、彼への不信や疑問ではなかった。こんな関係を続けている自分への疑問だった。
彼は悪い人ではない。でも、私が求めているものとは違う。 その夜、私は眠れなかった。
私はいつの間にか、自分の気持ちよりも、周りの期待や世間の常識を優先するようになっていた。 本当はもっと対等な関係を築きたかった。本当はもっと自分らしくいたかった。
ずれていたのは、私。違和感があったのは私の気持ち。 それは、きっと、私自身が私へ送った警告のメッセージ。
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