夢のつづき|アマノ文筆クラブ|名前のない物語
夢を見た。
亡くなった祖父と二人で、海辺を歩いている夢。
「いい天気だな」 祖父が言った。
「うん」 僕は頷いた。
波の音が聞こえる。穏やかな冬の午後。
「もう少し歩くか」 祖父が言った。
その言葉に頷いたところで、目が覚めた。
日曜日。時計は朝の六時。まだ暗い。
独り暮らしの冬のアパートは冷え冷えとしていた。
祖父との久しぶりの時間をもう少し味わいたいと思った。
エアコンを付けて、ベッドの中でまどろんだ。
夢の続きを見ることはできなかった。
布団から抜け出した時には昼近くなっていた。
日頃の疲れが出たのかもしれない。
2025年は、僕にとって変化の年だった。
9月に突然の辞令を受けた。 3年務めた人事部から事業部へ。
そして営業へ。
やりがいを感じながらも、ついていけていない自分が腹立たしかった。
昼過ぎ、部屋は比較的暖かくなっていた。
何をするでもなく過ごして、気づいたら三時を過ぎていた。
さて、このままではせっかくの休日が終わってしまう。どうしよう。
そんなことを考えていたら、今朝の夢をふと思い出した。
車に乗れば一時間くらいで海まで行ける。
冬の海辺には誰もいなかった。
海と砂浜と岩場。 波の音だけが聞こえる。
僕は砂浜を歩き始めた。
夢の中で、祖父と歩いた道。
「もう少し歩くか」
波の音に交じって祖父の声が聞こえた気がした。
祖父は、海に来るといつも何かを拾っていた。
貝殻や木の枝。そんなものを拾っては持ち帰っていた。
不思議がる僕に祖父は言った。
「考えてごらん。この貝はどんな一生を過ごしたのだろう。 この木の枝はどこから流れて来たのだろう。遠い外国からかもしれないじゃないか」
黙って頷く僕に祖父は言った。
「いつか外国に行ってみたいな」
「僕は、外国に住んでみたいな」
ささやかな対抗心を燃やして子どもの僕は言った。
「楽しみだな」
祖父は笑った。
砂浜の果ての岩場に上った。
足元に、小さな石が落ちていた。
丸い、白い石。
祖父なら言うだろう。
「いい形の石は、持って帰りたくなるんだ。
この角が取れるまでにこの石はどんな旅をしてきたんだろうな」
僕は石を拾い上げた。手のひらに収まる大きさ。
僕はそれをポケットに入れた。陽射しを受けていた石が温かい。
岩場から、砂浜に足を戻すと歩いてきた足跡が波に洗われているのが見えた。波が、ゆっくりと寄せては返す。
その時に気づいた。自分の足跡の傍らに、もう一つ、別の足跡がある。
それはまるで、僕と並んで歩いているようだった。
祖父と歩いていた夢の続き。
僕はポケットの石を握りしめた。
砂浜を引き返して、駐車場へ。
車のドアを開けながら思い出した。
異動前の歓送迎会で聞いた噂話。
「事業部ではスタッフ系の海外駐在員を探している」
ポケットの中の石は、温もりを残していた。
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☺️「名前のない物語」は、当note独自のシリーズ名で、ちょっとファンタジー、でもひょっとしたら。というテイストの物語です。
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