駄菓子屋丨せりふ三題噺
店先の金木犀の香りに導かれて、その駄菓子屋の前に立った。
約二十年ぶりだ。店は小さくなったように見えるが、それは私が大きくなったからだろう。
新しいブーツのヒールが、石畳に小さな音を立てた。
ガラス戸を開けると、ベルが鳴った。
「いらっしゃい」
店の奥から、おばあさんが現れた。あの頃と同じだ。更に年を取っていたが、笑顔は変わらなかった。
「お久しぶりです」
私は言った。おばあさんは首を傾げた。
「あら、どちら様?」
「子どもの頃、よく来てました。いつも、きなこ棒を買ってたんです」
「まあ」
おばあさんは笑った。
「それはたくさんいらしたからねえ」
そうだろう。私は特別な客ではなかった。ただの子どもの一人だった。
棚を眺めた。昔と同じお菓子が並んでいる。きなこ棒、ラムネ、ソースせんべい。
「どうしてここにいるの?」
声がして、振り向いた。
店の隅に、小学生くらいの女の子が座っていた。ランドセルを背負ったまま、床に座り込んでいる。
「お菓子を買いに」
私は答えた。女の子は不思議そうな顔をした。
「大人なのに?」
「大人だって、駄菓子は好きなのよ」
女の子はぴょんと立ち上がった。
「じゃあ、おすすめは?」
「きなこ棒」
即答した。
女の子は棚からきなこ棒を取り出した。
「これ?」
「そう。昔、毎日食べてた」
「毎日?」
「うん。学校の帰り道、いつもここに寄って」
女の子は目を輝かせた。
「私も毎日来てる!お母さんが迎えに来るまで、ここで待ってるの」
二十年前の自分を見ているようだった。
レジでおばあさんに、きなこ棒を二本差し出した。
「一本は、あの子に」
おばあさんは微笑んだ。
「優しいのね」
店を出ると、金木犀の香りがまた強く漂った。
ブーツのヒールが、石畳に音を立てる。
子どもの頃は、運動靴だった。
今はブーツ。
女の子の言うように、私は駄菓子屋には不似合いな客だろう。
それでも、きなこ棒の味は変わらない。
それが、なんだか嬉しかった。
はらとけいさんのせりふ三題噺に参加させていただいています。
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