桜の写真|5つの恋のエピローグ④
スマホの容量が足りないという通知が来た。
やらなければと思いながら、ついつい後回しにしていた写真の整理。重い腰を上げて、古い写真を削除していく。
去年の春の写真が出てきた。
桜並木の下で笑っている私たち。彼が撮ってくれた、満開の桜をバックにした写真。桜餅を食べている時の写真。
「綺麗だね」
彼がそう言ったのは、桜のことだったのか、私のことだったのか。今となっては確かめようもない。
あの頃は、毎年この季節になれば一緒にお花見をするのだと思っていた。来年は違う場所に見に行こうか、なんて話していたのに。
削除ボタンに置いた指が固まった。
思い出を消すことに、まだ躊躇している自分がいる。
しかし、整理しなければならないのは写真ではなく、気持ちの方なのだと気づいた。
今年の桜も、もう散り始めている。
一人で見た今年の桜は、去年とは違って見えた。淡いピンクの花びらは、記憶にあるものよりも自由に風に舞っていた。
彼がいなくても、桜は美しいのだと分かった。けれど自撮りの写真には、その美しさは残されていない。
思い切って、削除ボタンを押した。一枚、また一枚。
最後に一枚が残った。
桜並木を歩く私たち。彼の手を握っている写真。あの時の幸せは、確かに本物だった。
その写真だけは、アルバムの奥の方に移した。
完全に消すのではなく、そっとしまっておく。きっといつか、笑顔で見返せる日が来るだろう。
私はふと窓の外を見た。
散りゆく桜の花びらが踊っている。
来年の今頃には、新しい桜の写真が増えているのだろうか。そんなことを思いながら、私は静かに画面を閉じた。
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