図書館の住人|毎週ショートショートnote
会議資料を作りながら、ふと思い出した。大学四年の春、就活に疲れて図書館に逃げ込んだ日のことを。そしてそれから続いた日々のことを。あの頃、毎日同じ時間、同じ席。書棚の間を徘徊し、目についた本を読んだ。窓の外を眺めていただけの日もあったっけ。
司書の田中さんとは顔見知りになり、やがて軽く会釈してくれるようになった。常連の老人たちとも、無言の親近感があった。
気づいてみれば、下宿でゲーム三昧の友人や喫茶店に入り浸る友人、旅行ばかりしている友人もいた。「学生総隠居時代なのさ」と誰かが言った。
まだ仕事もなく、確かな目標もなかった二十二歳での隠居生活。僕の時間は図書館の静寂の中で、静かに流れていた。
スマートフォンの通知音が現実を引き戻す。会議まであと十分。資料はまだ半分しかできていない。
追憶の名残が頭をかすめる。
――本当の年齢になったら、あの図書館に戻ろう。田中さんはもういないかもしれないけれど。
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