海のポスト|3つのお題に空想のひらめきを|名前のない物語
防波堤の先に、赤い、小さなポストがある。
私たちは「海のポスト」と呼んでいる。
昔、おばあちゃんが言っていた。
「海のポストに入れた手紙は、宛名がなくても届くのよ」
「どういうこと?」
「一生懸命に書いた手紙なら、届けたい相手がどこにいても。海の向こうでも」
「本当?」
私が訊くと、おばあちゃんは笑った。
「昔からそう言われているの」
中学の時、家出をしようと思っていた。
書置きを書いて、海のポストの前まで行った。
封筒を握りしめて帰宅した私の話を、おばあちゃんは黙って聞いてくれた。
高校生の時、憧れの先輩に手紙を書いた。
けれど先輩には好きな人が居ることも分かっていた。
海のポストの前まで行って、投函せずに手紙を破った。
泣きはらして帰宅した私を見るおばあちゃんは、いつもと変わらない眼差しだった。
大学1年の夏休み、私は帰省した。
懐かしい防波堤を歩いて、海のポストに向かう。
赤いポストは、まだそこにあった。
私は、ポケットから封筒を取り出した。
今はもういないおばあちゃんへの手紙。
「おばあちゃん、元気ですか。私は、元気です。大学に合格しました。」
近況を綴った手紙の入った封筒を投函口に置いた。
一瞬の間をおいて、封筒がポストの中でコトンと音をたてた。
顔を上げて海を見る私の頬を潮風が撫でる。
水平線に見えていた船はいつしか見えなくなっていた。
片桐 みかん さんの3つのお題に空想のひらめきを、に参加致します。3つのお題の中から、「海のポスト」を使わせていただきました。
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