価値観の違い|恋人になれない
「私たち、価値観が違うのかもしれない」
そう言いながら、私は自分の言葉の薄っぺらさに嫌気がさした。
彼は困惑した表情で私を見つめた。
「具体的には、どういうこと?」
答えられなかった。いや、答えたくなかった。
昨日のことだった。彼が嬉しそうに新しい時計を見せてくれた。
「ボーナスで買ったんだ。ずっと欲しかったんだよね」
金額を聞いて驚いた。私の月給とほぼ同じだった。
「素敵ね」
なんとかそう言ったけれど、それは本心ではなかった。
その金額があったら、私は貯金をする。将来のために。でも彼は迷いなく時計に使った。
それは悪いことではないのだろう。彼が自分のお金をどう使おうと、それは彼の自由だ。でも、実際に使ってしまう、その感覚が理解できなかった。
「君も何か欲しいものがあったら言ってよ。遠慮しないで。」
彼はそう言ってくれた。優しい人だった。
その言葉を聞きながら私は考えていた。今月は電話代を節約している。今日のデート代はこれで大丈夫。食費も切り詰めている。来月の家賃を払えるめどもたつ。
育った環境が違うのだろう。彼の家は裕福で、私の家はそうではなかった。でも、それは理由とは言えなかった。
「価値観って、そんなに大事?」
彼が聞いた。
大事だ。でも、それを説明しようとすると、彼を批判しているように聞こえてしまう。
「あなたが悪いわけじゃないの。ただ、私たちは根本的に違うんだと思う。」
彼は納得していなかった。私も自分の説明に納得しきれていなかった。
彼の時計を見た時、私は二人の将来を想像できなくなった。結婚したら、家計はどうなるのだろう。子どもができたら、教育費は足りるのだろうか。
でも、それを言うのは、恋愛の楽しさも、美しさも、思い出さえも台無しにしてしまうように思えた。
「何が不満なの?」
彼がもう一度聞いた。
お金のこと、将来のこと、安定した生活のこと、家族のこと。どれを言っても、彼そのものを否定してしまうような気がした。
「価値観の違い」という言葉は、便利な逃げ道なのだろう。
彼は何も悪くない。私も決して悪くない。
ただ、一緒にいることが、だんだん苦しくなっていた。
それでも、それを言う勇気はなかった。
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