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抜け道|風まかせ文芸部|ひとりじゃない

「お母さん、こっちの方が早いよ」
小学3年生の息子が、細い路地を指差した。

スーパーからの帰り道。私たちはいつもの大通りを歩いていた。
「こっちで大丈夫」
私はそう言って、歩き続けた。
息子は少し不満そうだった。
少し前までは私にまとわりついていたくせに、と私は思った。

それから、一緒にスーパーに行くたびに、息子は同じことを言った。
「お母さん、抜け道があるんだよ」
「大通りの方が安全だから」
私は答えた。

細い路地は、暗くて、何があるか分からない。

ある日、息子がレジ袋を手に下げながら言った。
「今日は抜け道を通ってみようよ」
いつもより強い口調だった。

私は少し考えて、頷いた。
「分かった」
息子の顔が明るくなった。

おっかなびっくりに息子について行く。
周囲に気を付けなければ、と思う一方で私は足元ばかり見て歩いた。
路地は思ったより明るかった。

住宅の間を抜ける細い道。
壁には、ツタが這っている。

「ここ、きれいでしょ」
息子が言った。
確かに、緑が多くて、静かで、落ち着く。
引っ越してきて、三年。こんな道があるとは知らなかった。

大通りは、確かに安全だ。
でも、息子はもう、私が知らない道を、歩いている。

途中、小さな公園があった。
「ここで友達と遊ぶんだ」
息子が言った。

ブランコが一つ、滑り台が一つ。
小さいけれど、子どもたちの声が聞こえてきそうな公園だった。
「お母さん、知らなかったでしょ」
息子が得意げに言った。

「うん。知らなかった」
私は素直に答えた。

抜け道を抜けると、いつもの大通りに出た。

「どうだった?」
息子が訊いた。

「良かったよ。ほんと、近道だね」
私の言葉に、息子は笑った。

次の週、また息子が言った。
「お母さん、抜け道通って帰ろう」
「うん」

今度は、私も前を向いて歩いた。
息子の背中を見ながら。







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