下手な絵|風まかせ文芸部/芸術
良く晴れた秋のある日。 母と一緒に、祖父の遺品の整理を始めた。
押入れの奥から出てきた色褪せたスケッチブック。 描かれているのは、若い女性ばかりだった。
「これ、おばあちゃんだよね」
私は訊いた。
母は絵を見て、微笑んだ。
「そうよ。お父さんが描いたの」
「おじいちゃんが?」
驚いた。無口で不器用な祖父のイメージしか私にはなかった。
「上手とは言えないわよね」 母は笑った。
確かに、デッサンは少々怪しい。色使いも筆使いもいかにも素人っぽい。
美術の教科書に載るような絵ではない。
でも、その女性が祖母だとすぐにわかる。
控えめで穏やかな微笑みを絶やさない祖母だった。
不愛想だけれど優しい祖父だった。
母と二人、在りし日の祖父母を思い出しながらしばらく無言の時を過ごした。
「絵を描くって、上手だとか下手だとかいうことではないのかもね。」
目を細めながら母が呟いた。
「じゃあ、何?」
「誰かを想うこと。大切にしたいと思うこと」
母の言葉に私は頷いた。
窓から差し込む日差しが暖かった。小春日和とは、こういう日のことを言うのかもしれない。
そのスケッチブックには、祖父母の時間が残っていた。
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