夜中の二時。枕元に立っている。
出た。
白い着物、長い髪、うつむき加減。透けて向こうが見える。
けれど、俺は驚く気力も起きない。働きすぎたエアコンは先週から黙り込んでいる。
室温三十三度。
修理は来週だという。
しばらく黙って立っていた幽霊がおもむろに言った。
「……暑いですね」
「え?」
「暑いですね」
二度言った。
「いや、そちらは涼しいのでは」「よく言われます」
「私に会った皆さんは、背すじが寒くなったとおっしゃいますが」
「なりませんか、自分では」
「なりません」
きっぱりしていた。
「涼しく感じるのは、いわば皆さんの思い込みでして。暑い中立っている私は、涼しくなんか……」
何やら気の毒になった俺は、冷蔵庫から麦茶を出した。
二つ注いで、枕元に置いた。
「ビール、昨日全部飲んじゃったので」
幽霊は、少し驚いた顔をした。
「大丈夫です。私、飲めないので」「そうですか」
幽霊は、伏し目がちに、また黙った。
気づいたら消えていた。
あとには、麦茶のグラスが二つ。中身は減っていなかった。
俺は片方を取り上げて一口飲んだ。
ぬるかった。
