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最後のメール|それぞれの恋⑤

「削除しますか?」

スマホの画面が問いかけてくる。

彼とのLINEトーク。夏の思い出だけではない。2年間の記録がそこにある。最初の「はじめまして」から、最後の「お疲れさま」まで。

指が震える。

昨日、彼から連絡があった。転職が決まったこと。遠くの街に行くこと。そして、私たちの関係についても「一度整理したい」ということ。

曖昧な関係だった。恋人とも言えないし、友達とも言い切れない。お互い、はっきりさせることを避けてきた。

でも、終わりは突然やってきた。

「君とは良い関係でいたいけど、新しい環境で頑張りたいんだ」

彼の声はいつもと同じように穏やかだった。責めるような口調でもなかった。けれど、その優しさが余計に胸に刺さった。

私は「分かった」としか言えなかった。


今、一人でトーク履歴を見返している。

「今度、映画でも見に行こう」
「君と話していると時間があっという間だ」
「仕事でミスして落ち込んでる時、君のメッセージで救われた」

嬉しかった言葉の数々。でも、どれも「好き」という言葉ではなかった。
私も言えなかった。「好き」って。
怖かったから。拒絶されるのが。今の関係が壊れるのが。

でも結局、壊れてしまった。

「削除しますか?」

画面が再び問いかける。

削除しなければ、いつまでも見返してしまう。前に進めない。
削除すれば、彼との思い出はスマホから消える。でも、心からは消えない。

私は決めた。

削除ボタンを押す前に、最後のメッセージを打った。

「2年間、ありがとうございました。新しい場所でのご活躍をお祈りしています」

送信。

すぐに既読がついた。でも、返事は来なかった。
それで良いと思った。これで本当におしまい。

「削除しますか?」

今度は迷わず「はい」を押した。

画面が空白になった。
新しいトークを始める準備ができた。

いつか、誰かと。
今度は、「好き」と言える相手と。

スマホをバッグにしまって、外に出た。

秋の空は、思っていたよりも青く澄んでいた。





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