子どもの夢丨せりふ三題噺
懐かしい土手を独り歩いていて、古いベンチを見つけた。たまにしか帰省をしないとはいえ、こんなところにベンチがあったかしら。
座面はひび割れていて、ペンキも剥げている。でも、ベンチとしてはしっかりしていそうだ。
息子を実家に預けてひと時の散歩。ベンチに腰を下ろして川面を眺める。この川も対岸に見える町並みも、子供の頃とあまり変わっていない。
「あなたは将来何になりたいの?」 中学の授業で、担任の先生に聞かれたことがある。
「みんなを笑顔にするパン屋さんになりたいです。」 そう答えた私に、クラスメートがくすくす笑った。
「パン屋だって。どうせ夢だよ。」 誰かがそんなことを言った。笑われたことに顔が赤くなったが、本当にそう思っていた。
その後、高校、短大を経て、私は普通のOLになった。やがて結婚した相手はパン屋さんではなかった。 夢は夢のままだった。
けれど時には家族のためにパンやアップルパイを焼く。
そうして、オーブンから漂う甘い香りの中、自分のお店でいろいろなパンを焼いている自分を思い浮かべる。
現実の私は、「ママのアップルパイは、世界一おいしいよ」息子がそう言うのを聞きたくて、今日も台所の小さなオーブンの前に立っている。
息子の笑顔とアップルパイの香り。私は二つとも手にしている。
はらとけいさんのせりふ三題噺に参加させていただいています。
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