迷子のランプ|3つのお題に空想のひらめきを
古本屋の奥で、場違いな小さなランプを見つけた。
真鍮の表面には細かな傷があり、取っ手の部分は使い込まれて滑らかになっている。 値札があるところを見ると売り物のようだ。「迷子のランプ」と手書きで記されている。
店主に尋ねると、「いつからかあるのですが、前の持ち主すらわからないんです。」と苦笑いを浮かべた。 そして、魔法のランプでないことだけは確かです、と付け加えた。
購入して自宅に持ち帰ると、ランプの底に小さな紙片が挟まっているのに気づいた。丁寧な文字でこう書かれている。
「月の図書館で待つ。カラス」
その下に小さな文字が見えるが滲んでいてうまく読めなかった。
カラスという名前には憶えがあった。カラスのクロ助。子供の頃、母に叱られた夜、一人で泣いている時などに現れて、いろいろな話をしてくれた。「月には大きな図書館があるんだ。そこには、なくしてしまったものが全部しまってある」
月面図書館。そこには私が失くした指輪も、転校で別れた友達との約束も、初恋の人への手紙も、すべてが本になって並んでいるのだという。いつしか忘れていたそんな話をふと思い出した。
今の私は三十代半ば。結婚もしたし、これと言って生活に不満があるわけでもない。けれど時々、思うことがある。あの時、別の選択をしていたら。今の主人と結婚していなかったら。あの人と一緒にいたら。そんな「もしも」の物語が、月の図書館に並んでいるのだろうか。
夜中に目が覚めて、ランプを見つめる。薄明かりの中で、それは小さな月のように光っている。カラスの鳴き声が遠くで聞こえたような気がした。
このランプは、迷子になった私を、闇夜のカラスへ、そしてあの図書館へと導いてくれるかもしれない。
そういえば、カラスからの手紙を、まだ読み返していない。
片桐みかんさんの企画に参加させていただいています。
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