選択の結果|ひとりじゃない|せりふ三題噺
「条件の方はいかがでしょうか」
電話の向こうの声が、もう一度確認を求めてくる。年収は今の1.5倍、都心のオフィス、やりがいのあるプロジェクト。 これを請ければ、キャリアにおいてのシングルマザーのハンデは解消される。
「少し、お時間をいただけますか」
いくつかの確認をしたあと。私はスマホを置いた。
今日は仕事をやりくりをして半休をとっていた。このやりとりのために。 そして、もうひとつ、6歳の息子との約束を果たすために。
窓の外では雨が上がったばかりで、アスファルトに大きな水たまりができている。息子が帰ってきたら、きっと長靴を履いて飛び回るのだろう。そう思いながら、私は持ち帰っていた企画書作りを再開した。
その夜、息子と一緒にベランダから遠くの花火を眺めた。 「きれいだね」と息子が呟く。
私は彼の頭をそっと撫でながら、昼間の電話を思い出していた。 新しい職場は残業が多い。出張もある。 こんな風に息子と花火を見る時間が取れるのだろうか。
花火の色や形の変化に息子は目を輝かせている。 私は花火よりも息子の横顔をずっとみていたかった。
「さっきのラーメン、おいしかったね」 食器の片付けをしているときに、息子がそう言った。 インスタントラーメンに野菜を加え、卵を落としただけの簡単な食事だったのに。
一緒に花火をみる。ラーメンを食べる。それはたった二つのことだった。
翌朝、私は電話をかけた。 「昨日の件ですが・・・
「お断りします」と言おうとして、私はまだ迷っていた。
収入が増えれば、息子が欲しがっていたゲームを買ってあげられる。スイミングスクールに行かせてあげることもできる。
あの子をもっと笑顔にしたい。そう決めた。
大きく息を吸い込むと、私は電話の相手に決心を告げた。
はらとけいさん、いつもお世話になっております。
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