見出し画像

視線|片想い文芸部

よそ見をするのが癖になっている。

彼がこちらを見ていることに気づくと、私は窓の外や黒板や、教室の隅にある掲示物に視線を向けてしまう。 「おはよう」と声をかけられても、彼の顔をまっすぐ見ることができない。返事をしながら別の方向を見ている。

それは、恥ずかしいからというだけではない。私は半ば無意識に彼の視線から逃げようとしている。

昨日の放課後、廊下で彼とすれ違った。私に気づいた彼は微笑んでくれた。けれど私は、とっさに靴箱の方に目を向けてしまった。 すぐに後悔した。なぜ素直に微笑み返せないのだろう。彼の目にはには、私は上の空だと映っているだろう。失礼なヤツだと思っているかもしれない。

図書室でもそうだった。彼が近くの席に座った時、私は本に集中しているふりをして、ページから目を離さなかった。本の内容は全然頭に入らない。彼がそこにいることばかり気になっていた。

友達に言われたことがある。
「彼のことが嫌いなの?」
そんなわけがない。でも、ひとたび彼をみてしまったら、きっと目が離せなくなる。彼を見つめることで、私の気持ちがばれてしまいそうだ。 彼の目には、私への特別な感情などないだろう。そう思っただけで耐えられない。よそ見をしていさえすれば、希望も絶望も感じずに済む。

今日も彼は、普段通りに話しかけてくれる。私は、彼の肩越しの景色を見ながら返事をしている。一方で、いつかよそ見をやめることができる日がくることを願いながら。





ナルさんの片想い文芸部に参加させて頂いています。

🧡 スキ 🤝 フォロー 💬 コメント…のいずれかでもいただけたら、とても励みになります!

#片想い文芸部 #よそ見
#共創 #ショートショート

いいなと思ったら応援しよう!