誰の英語?|カフェ・フルエンタラ
●誰の英語?
「Perfect pronunciation! Well done!」
Shine君は英語科の教授からの褒め言葉を受けて、なぜか空虚感に襲われていた。大学の図書館を出て、肩を落としながら歩く。
発音は完璧。文法もほぼ間違えない。模範的な英語。でも、それは本当に自分の言葉だろうか。
「Who am I... when I speak English?」
街角の書店のウィンドウに映る自分の姿が、どこか他人のように見える。高校時代からずっと真似てきた映画のセリフ、教科書のフレーズ、先生の口調。どれも「Shine君の英語」ではなかった。
ふと足を止めたのは、小さなカフェの前だった。「カフェ・フルエンタラ」。
店内に足を踏み入れると、静かな音楽と本の香りに包まれた。カウンターでは白髪混じりのマスターが、外国人の客と英語で会話していた。
「So, what brings you here today?」
「Well... I just felt like having a quiet moment.」
その英語は、完璧ではなかった。少し詰まりながら、時に日本語のリズムが混じる。でも、確かにマスターの言葉だった。
Shine君がソファに腰掛けると、マスターのBuddyが静かに微笑んでコーヒーを差し出した。
「あの、英語って...自分のものになる日が来るんでしょうか」
Buddyはしばらく考え、本棚から古い洋書を取り出した。ページの余白には、様々な筆跡でメモが書き込まれている。
「この本を読んだ人たちは、みんな違う言葉を残していったんです」
Buddyはそっと本をめくった。
「英語も同じですよ。誰かの言葉を借りて、少しずつ自分の色を付けていく」
「でも、先生は完璧な発音を求めるし...」
「The perfect vessel carries nothing of its own.」
Buddyの言葉に、Shine君は首をかしげた。
「完璧な器は、自分自身のものを何も運ばない。君の言葉には、君だけの不完全さが必要なんだ」
帰り際、Shine君は思い切って「Thank you」ではなく「ありがとう」と言ってみた。そして続けて、少しぎこちない英語で付け加えた。
「I'm still... finding my own words.」
Buddyの表情に、温かな光が灯った。
「完璧な器は、自分自身のものを何も運ばない」
