屋根裏の小さな図書館|虹色創作部|3つのお題に空想のひらめきを
わずかばかりの夏休み。一年ぶりに帰省した。
「帰ってきたなら、片づけくらいしなさい。」
アラサーの私に、まるで小学生に話すように母が言う。
久しぶりに屋根裏に上がった。
古いアルバム。子どもの頃の工作。どこかに寄付するのだと言ってしまいこんだ洋服。使わなくなった地球儀。積まれた段ボール箱。
(まるで私の心の中みたいだ。)
そんな中に小さな本棚があるのを見つけた。高さは腰ほどしかない。棚の間隔も狭い。子ども用だと分かるが記憶にはない。
並んでいる本は十数冊。どれも見覚えがあるような、ないような。
一冊取り出してみる。『星の王子さま』。ページを開くと、表紙の裏に小さな字で名前が書いてあった。
「田中雅人」
ああ、彼だ。彼の本だ。
中学二年の時、隣のクラスにいた田中くん。一緒に図書委員をしていたっけ。休み時間はいつも本を読んでいた。私が本好きだと知ると、いろいろな本を貸してくれるようになった。
「これ、面白いよ」
そう言って手渡してくれる時の、少し照れたような笑顔を思い出した。
他の本を見てみる。『アルジャーノンに花束を』『夏の庭』『西の魔女が死んだ』。どれも彼から借りた本だった。
転校が急に決まって返せないままになったんだ。
母が「後で送りましょう」と言っていたことを思い出した。結局そのままになっちゃった。
「ナルニア国物語」の本の中に手紙が挟まっているのを見つけた。
「本、返してもらわなくて大丈夫です。気に入った本があったら、そのまま持っていてください」
表紙裏の署名と同じ。几帳面な彼の字だ。
手紙の日付を見る。私が転校した翌月になっている。きっと私の新しい住所を調べて送ってくれたのだろう。でもこの手紙を読んだ記憶はまったくない。
それなのに屋根裏の薄暗い光の中で、十五年前のあの午後がよみがえる。
図書室で向かい合って本を読んだ時間。廊下で会った時の短い会話。
「今度、映画を見に行かない?」
彼がそう言ってくれたのは、父から転校の話を聞いた翌日だった。
そんな記憶に少し息苦しさを感じた。
かび臭い匂いとホコリのせいかな。
転校しなかったら、あの一週間前に彼が誘ってくれたなら。
今とは違う私がいたのかもしれない。そんな思いがよぎる。
実家にいる間に、この本たちをもう一度読んでみよう。
屋根裏で見つけた小さな図書館。いつか自分の子どもに思い出と一緒に読み聞かせる日が来るかもしれない。
片桐みかんさんの企画に参加させていただいています。
虹くりっぷ@虹色創作部さんの読書というお題、イラストも使わせていただいています。
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