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選択したもの|恋人になれない

教会の鐘が響く中、彼女はバージンロードを歩いている。
それは私が知らない女性。
彼女の隣を歩いているのは、三年前まで私が良く知っていた男性。

三年前、私は彼からプロポーズされた。

「君と一緒に歩んでいきたい」
彼の真剣な眼差しを覚えている。きっぱりした男らしい声も。

でも、私は即答できなかった。

「少し時間をもらえる?」
そう言った私に、彼は優しく微笑んだ。
「もちろん。大切なことだから、よく考えて」

彼のことは愛していた。でも、結婚後の生活を想像することが難しかった。彼の実家は厳格で、私のような自由気ままな人間が受け入れてもらえるのか不安だった。

それに、まだやりたいことがあった。資格を取りたい。旅行もしたい。何より海外で勉強したいという夢を諦めきれなかった。

「結婚するのは、まだ早いのかもしれない」
そう思いながら、日々は過ぎていった。

彼は催促することなく、いつものように私に接してくれた。でも、時々見せる表情に、私は罪悪感を覚えた。

三ヶ月が過ぎた頃、私は決心した。

「やっぱり、もう少し待ってもらえる?」
「どれくらい?」
「わからない。でも、今はまだ...」

彼からの連絡は、だんだんと減っていった。

申し訳ないと思う一方で、私は安堵した。重荷から解放されたような気がしていた。海外留学の準備に集中し、半年後にはイギリスに向かった。

ロンドンでの生活は楽しかった。新しい環境、新しい友人、新しい学び。毎日が刺激的で充実していた。やがて彼に連絡することも忘れた。

二年後に帰国した時、彼が婚約したと聞いた。

「素敵な人よ。彼にぴったりだと思う」
共通の友人がそう教えてくれた時、胸に鋭い痛みが走った。

彼が選んだ相手は、私とは正反対の女性だった。家庭的で、安定を求め、彼の家族からも愛された人。

私が持っていなかったものを最初から持っていた人が、私が望んだものを手に入れたのだと思った。

あの時、もし迷わずに「はい」と答えていたら。
プロポーズから三ヶ月ではなく、一ヶ月で答えていたら。
留学を諦めて、彼との未来を選んでいたら。

そう思った時、私は初めて、自分が手にしているものと失ったものを比べた。

今、彼の結婚式で誓いの言葉を聞きながら、考えている。

あの時の選択は、間違いだったのだろうか。
留学で得たもの、経験したこと、成長した自分。それらは、彼と結婚していたら得られなかっただろう。
彼との時間、彼との未来を私は選ばなかった。

けれど本当にそうだったのだろうか。

彼に留学を相談し、ロンドンから毎日のように連絡を取ることはできなかったのだろうか。
彼を愛していると言いながら、私は自分の自由を優先したのだ。

もっと上手なやり方は、きっとあったのだろう。
彼の愛と自分の自由を両方手にすることもできたのかもしれない。

でも、人生に「もし」は存在しない。

選択は取り消せない。時間は戻らない。
私たちにできるのは、その瞬間を大切にすることだけ。

ここに私がいるのは、私への罰ではない。
それぞれの人生への祝福のためであるはずだ。

教会から出る時、彼と目が合った。
彼は小さく微笑んで、軽く頭を下げた。
私も微笑み返した。

それが、私たちの最後の挨拶だった。






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