こぼれ月|3つのお題に空想のひらめきを|名前のない物語
小学生の頃。
ある晩、おばあちゃんが言った。
「今夜は、月を集めるよ」
「月を集める?」
私は訊いた。
「そう。こぼれ月を、魔法瓶に入れるの」
おばあちゃんは、私を連れて庭に出た。
「ほら、あそこに月が落ちているでしょ」
おばあちゃんが指差した水面で、月は美しく輝いていた。
おばあちゃんは、コップで水をすくった。
月の光が、コップの中で揺れる。
私は、おばあちゃんを真似てみた。
月の光が、コップの中に入った。
「それを、魔法瓶に入れて」
私は、慎重に、コップの中身を魔法瓶に注いだ。
月の光は魔法瓶の中に消えた。
「これで、良いの?」
おばあちゃんは、魔法瓶の蓋をしっかり閉めて言った。
「いつか、寂しくなった夜に、開けてみて」
やがて私は大人になった。
そして、おばあちゃんはいなくなった
ある夜、おばあちゃんの部屋を片付けているとき銀色の小さな魔法瓶を見つけた。
あの魔法瓶だ。
私は蓋を開けてみた。
中は、空っぽだった。
けれど私は思い出した。
あの夜のこと、おばあちゃんの笑顔。
二人で月を集めた、あの時間。
私は、魔法瓶を持って、外に出た。
庭の池に、満月が映っている。
コップで水をすくった。
月の光が、コップの中で揺れる。
魔法瓶に、そっと注ぐ。
月の光が、魔法瓶の中に消える。
この魔法瓶を開けるのは誰だろう。
片桐 みかん さんの3つのお題に空想のひらめきを、に参加致します。3つのお題の中から、「こぼれ月の魔法瓶」を使わせていただきました。
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