予感の味|風まかせ文芸部
「電話ってかかる前にため息つきますね」
これは、小説の一節だったか。
現代においても、似たようなことがある。
私のスマホは鳴る前に瞬きをする。
いや、それよりも早く、わかるときもある。
夕食の片付けを終えて、ソファに座った瞬間、
ふと、胸の奥が騒いだ。
甘いような、苦いような。
何かが近づいてくる味。
舌の上ではなく、もっと奥の方で。
数分後、スマホが瞬きをした。
そのあと現れたのは彼の名前。
半年、連絡を取っていない。
最後に会ったとき、私たちは何も約束しなかった。
画面を見つめたまま、私は動けずにいた。
出れば、何かが始まる。出なければ、何かが終わる。
いや、出れば何かが終わり、出なければ何かが始まる。
甘さと苦さは、同じものかもしれない。
ため息をひとつ。
そして私は、画面に指を伸ばした。
iさんの風まかせ文芸部に参加します。
