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アートのnote16「鑑賞者としても身の引き締まる素晴らしい卒業制作展」多摩美術大学卒業制作展2026その①(多摩美術大学八王子キャンパス)

 1月9日から12日までの4日間、多摩美術大学八王子キャンパスで開催された多摩美術大学卒業制作展に行ってきました。11時から18時過ぎまで、展示室や教室を駆け回り、ほぼ9割ほどの作品を観てきましたが、卒業生たちの卒業制作にかける真摯な想いが伝わって来る素晴らしい卒業制作展でした。

 昨秋に行った多摩美芸術祭の印象では、鑑賞者へ伝えることよりも、自分自身の制作エネルギーと向き合い制作に専念するような作品の印象が強かった多摩美術大学。今回の卒業制作展では、構想から完成まで4年生の時間の大半を費やしたという作品への熱量が伝わってくるような作品が多数みられ、鑑賞者としても身の引き締まる思いだった。

山平萌生『記憶を織り重ねる』

 日本画、油画からメディア芸術や情報デザインといった9学科の卒業制作と、博士課程の修了制作が学内の様々な空間に展示されていた今回の展示。あまりにも良いと思えた作品が多かったので、まずは印象が強かったテキスタイル専攻の作品について、取り上げていきたいと思う。

 先日観た武蔵野美術大学の卒業制作展でも思ったことだが、テキスタイル専攻の作品を観て感じたことは、布や織物といった素材を、人の体の形に合わせたファッションとして表現する場合、どうしても人体という形に合わせて制作しなければならない制限が生まれることもあり、今回のテキスタイル専攻の卒業制作では、ファッション系の作品よりも、より自由度の高い立体や平面の作品に魅力的なものが多かった。

 個人的に最も印象の強かった作品は、山平萌生の『記憶を織り重ねる』という、作者自ら、様々な織り方で織った布地に、過去にまつわる記憶の断片のイメージを、シルクスクリーン印刷の手法で定着させた作品。2層仕立ての作品は、下層がこれまで学んだテキスタイルの技法を用いて支持体となる布から織りなし、上層の記憶のプリントの配置に合わせて織り方を変え、イメージの質感や感情をより伝えやすくするという効果を狙ったものだった。

山平萌生『記憶を織り重ねる』

 上層の過去の記憶のイメージは、画面が白い光を放つアナログテレビと、2組の布団が敷かれた暗い部屋。その部屋と同じ建物内と思われる赤いドアが印象的な玄関が、外へと少し開いた様子。戸外の室外機と学校から持って帰ってきた朝顔の鉢植えと植木鉢。それら全ては、決して華やかではなく、些細なものかもしれないが、記憶の片隅に押しやられてはいても、作者の心にしっかりと焼き付いたもので、それらを今持てる表現の試行錯誤の中から『記憶を織り重ねる』形で作品化できていることが伝わってくるものだった。

 この作品以外にも、縫いや織りといった制作手法で、時間がかかるからこそ込められる思いや感情を作品化したものに優れた作品が多く見られた。小島平莉の『My little house』は、異国にルーツを持つ母にまつわる物事を、5枚の連作テキスタイル作品で表現。ジョ ギョウハンの『From Where I Stand』(私の立場から)は、様々な布で作られた花のような、植物のような造形物が、色彩や生命力を増しながら壁に張り付き、増殖しているようなイメージを感じさせる優れた作品だった。

ジョ ギョウハン『From Where I Stand』

 小島由子の『#edited_self_portrait』は、12枚のハンカチにプリントしたインスタ風のセルフポートレートの外や内に、友人との楽しい描写を刺繍で「盛り」、「SNS」と「現実」、「写真」と「刺繍」、「イメージ」と「リアル」といった2つの間に生じる「はざま」の中で揺れる現代の若者の姿を掬い取ったような作品を作り上げていた。

小島由子『#edited_self_portrait』

 染めの作品では、遠藤奈々子の『まなざしの先に』が、人ならざる生命体が異なる姿や性格のままで共存できる世界を描き、15世紀のフランドルの画家、ヒエロニムス・ボスの『快楽の園』にも似たような俯瞰図を、蝋防(ろうけつ)染で作り出していた。戸嶋結理の『東京大水槽』では、巨大ターミナル駅を行きかう人々の姿を、水族館を泳ぐ魚に見立て、「異なる背景や価値観を抱えながらも共存している」、「大きな生態系」として友禅染の形で表現して見せた。

戸嶋結理『東京大水槽』

 紐のような素材を編むことで立体を作り出す手法の作品にも魅力的なものがあった。栗原奈央子の『未来を守るかたち』では、「自然界の果実や昆虫の卵など」からインスパイアされた「曲線的」、「やわらかな形態」を、内部空洞を生み出すことを目的として組み上げ、内外両面で幾何学的で住環境性も兼ね備えたような作品を生み出していた。

 固く丈夫なだけでなく、軽く安価な合成繊維ロープなどを用いた、山際あゆの『撚り組む行為のかたち』では、一本の紐という線状の存在が、複数本で組み上げ、捻れなどが生じていくことで、面的な形だけでなく立体的な構造物としてユニークな姿を現していく作品群で、興味をそそられた。

山際あゆ『撚り組む行為のかたち』

 布や織物をはじめ、糸や紐を組むことや染めることも含めた広い領域にまたがるテキスタイルという領域は、本来、衣類や住居にまつわる「実用物」としての活用が多かったため、アート表現の手法としては、掘り下げが進んでなかった分野であったように思う。しかし、今回の卒業制作展でもあったように、他分野との掛け合わせや、感情や思い、質感といったものを乗せる表現においては、時として、絵画や彫刻のような表現よりも、軽やかで自由度の高い表現が可能になるように思う。

 テキスタイルというジャンルに付随する様々な技術を習得し、その表現手法を自分たちがより自由に自己表現するための「手段」として活用していくような若い作家が増えていくことで、アートという世界の表現は、より豊かで多彩なものになっていくにちがいない。

 多摩美術大学卒業制作展・大学院修了制作展2026
A日程】2026年1月9日(金)〜2026年1月12日(月)時間10:00〜18:00学科日本画、油画、版画、彫刻、工芸、テキスタイルデザイン、環境デザイン、メディア芸術、情報デザイン
B日程】2026年3月13日(金)〜2026年3月15日(日)時間10:00〜18:00(最終日15:00まで)学科グラフィックデザイン、プロダクトデザイン、芸術学、統合デザイン、演劇舞踊、劇場美術デザイン
場所多摩美術大学八王子キャンパス
東京都八王子市鑓水2-1723

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