【読書感想文】遠隔殺人の崩し方「ボタニストの殺人」
え、エステル・ドイルーー!!なんてこった!エステル・ドイルがピーチ姫です!ポーというマリオとティリーというルイージガンバレ!!
ボタニストの殺人 上/下
著者:M.W.クレイヴン 訳:東野さやか
早川書房 2024/8/21
押し花を受け取った著名人が連続で殺される事件が起きた。捜査に挑むポーだったが、彼の同僚の病理学者が殺人容疑で逮捕され……
イギリスのトーク番組怖……。
『モーガン・ソームズ・アワー』について
冒頭の殺人の起こったトーク番組が怖すぎて怖い。右派!左派!!
日本人の身からは、考えられないくらい過激で短慮に見えるが…なんと、現実の欧州でもああいう番組が主流らしい!怖いね!!
ああいうトーク番組が受ける素地を調べてみた。怖い物は解体するに限る!
1.ディベート文化
欧州では、自分の意見を強く主張し、相手の矛盾を突く「ディベート」が教育の一環であり、一種のスポーツとして愛されています。
彼らにとって、生放送で激しく罵り合うのは、日本人が「ボクシングの試合」を見るような感覚に近い、らしい。
議論ってのは、相手の人格は攻撃せず、議論が済んだらフェアに仲良くしようぜというものだが…。その辺が吹き飛んでるのはご愛嬌やね。
揖譲して升り、下りて飲む、なんて知らん諺やな!がはは!!
2.テレビ局の開き直り具合
日本のテレビ局は「みんなに好かれたい」(クレームが怖い)という基本理念から、中立風かつマイルドになりがち。貴重な数少ない討論番組でさえ、最初からどの意見が世間的に正しくてが決まっていて、呼ばれたゲストのベビーフェイスが勝つように設定されているように見える。
しかしイギリスは、最初から「全国民に好かれよう」とは元から思っていないらしい。「人口の3割いる、リベラルが大嫌いな保守層」だけをターゲットにしている。
スポンサー側も「その3割の熱狂的な層にアプローチしたい企業」がつけばビジネスとして黒字化するため、世間全体からクレームが来ても痛くも痒くもない、という構造。まじ???
この「最初から全てのひとに好かれようと思っていない」というスタンスはポーにも言えることなので、作風を感じる…。
イギリスは「階級」と「地縁・血縁」で最初から分断されているとのことで、対立構造がエンタメになりやすいみたい。
事なかれ主義の日本の民族性とはかなり違って面白いな…。それがプロレスレベルの八百長感覚ならいいんだけど、本気で対立してるから大変だよね。
レッツ違法捜査!
この話の前半の山場として、ポーの違法捜査がある。
どんな違法さかというと
起訴されて拘留中の、検視官の権限をはく奪されたエステル・ドイルに、抱えている事件の検死書類を見せて意見を聞く。
なにいうてんねん。
もしポーのこの暴挙が公になった場合、彼が受けるペナルティはクビどころか、即座に逮捕・起訴され、刑務所に送られるレベル。
イギリスの警察・法体系のルールに照らし合わせると、具体的には以下のようなペナルティが科されます。
刑事罰(普通に逮捕される)
公務員職権乱用罪というやつで起訴される。「公務員がその職権を乱用し、国民の信頼を著しく裏切る行為をした」という非常に重たい罪…。おまえ…。
法律上の最大刑はなんと終身刑。執行猶予なしのガチの禁錮刑は確実です。懲戒処分
証拠汚染と機密漏洩で即時懲戒免職(一発解雇)!
二度と警察関連の職に就けないよう、全国的な非適格者リストに名前が載ります。年金の剥奪
重大な汚職・職権乱用で免職・有罪となった場合、年金受給権の一部または全額が没収される措置が取られます。
元々ポーは「内務調査で目をつけられ、地方の国家犯罪対策庁に左遷になった」という前科があります。なんて危ない橋を渡るんだ…。エステル愛…。
ポーを目の敵にしている奴は多いんだから!気を付けなよ!!
ポーのおじいちゃんぶり
ポーはスマホを使えない。
ググったりもできない。
ので、捜査に使うのはもっぱら頭で覚えていることばかりなのだけど、それは昔の軍関係の記憶を始めとしてかなり手広い。
ライチョウの狩猟解禁日なんてなんで知ってるの??
イギリスの男の子(おじさん)には常識なんですか?
犯人や関係者におじさんが多い以上はまだまだポーの頭は現役だね!等と思うのであった。
やぎのまるやきが好物な蛮族とは思えないほどの読書家でもあるし…
ここからネタバレ
突然のブラックジャック(開腹手術)に戸惑う
手術!手術用のスプーンなんてあるんですね。へ〜!
密室殺人の謎
この、島田荘司なみのフィジカルと十角館なみの隠し扉の混合というミラクル案件だった…。真逆、24時間金庫室でトイレ我慢せずに篭もってるなんて思わないでしょ!
糸屑には油の匂いよりも糞尿の匂いがしたとおもうよ…。
フレディが捕まった時、頁的に残り10%あって、まだなんかあんの?と戦々恐々としていたが、ふ、復讐〜!!!どん底の人間殺しても面白くねえ!わかるよ!因果応報ではなく自分の手でどん底に突き落としたいその復讐心は凄い。
巨大ブーメランシュタール
この復讐が叶った最大の要因は「シュタールが裏取りをサボった」からだ。
「ジャーナリズムの基本は情報源を護ることだ」シュタールは言った。「単に情報源の身元を明かさないというだけじゃない。本当の情報源が違法なものの場合は、納得のいく説明をすることも意味する。個人のボイスメールを盗聴したなどとは、絶対に認めてはいけない」
犯人から情報を貰ったなどとは、絶対に認めてはいけなかったし、写真は精査してきちんと自分が撮ったものを使うべきだった。
その古き良き誠実なジャーナリズムを捨て去ったからこそ二度目の零落を迎えたというのは、なんとも因果応報!
フレディの強メンタル
刑務所の一人称で、花を摘んで「趣味があるのは良いことだ」とかいってんの全然反省して無くて、不自由の中で自由さを見つけるのうまくてもむしろ尊敬する域に達するフレディ…。何か違和感がある時に、「こいつは下調べがすごくて緻密さにかけては一流だから、くだらないミスや見過ごしはないとしたら、何か狙いがあるはずだ」の論法が通じるフレディ…。
本来は奥さんの内情を知られたくないから無実の罪を着せたエステル・ドイルが、正真正銘フレディの泣き所になってんのめっちゃおもろい。
毒の使用方法は序の口で、殺人スプレーの設計図見て「こんなもん怖くて持ち歩けねえよハッタリだ」って看破するの、同じくらいの知性があって科学に精通している大人だからこそ導き出せるというカウンターなのが最高だった。
エステル・ドイルとポー
あれま〜!サラッとくっついたわ。いや、投獄からの無実信頼はアガサのスタイルズ荘でも行われた王道恋愛燃焼イベントですからね。ポーが殊更起訴とか拘置関係に強いからサラッとして見えるだけ…。
大人な関係の描き方、イチャつき方がビターめで、恋人関係になってもこれといって雰囲気が変わらないので安心…。
このポーの行動には「人を愛する」という行為の、純粋さとスタイリッシュさがめちゃくちゃ凝縮されてて、エステルは男を観る目があるなあと思う。
拘置面会中に普段はしないハグとか、普段は恥ずかしいけどエステルを安心させるために手を握ったりとか、まず彼女を無実の投獄された人間ではなく、「唯一の肉親を殺された女性」として扱っているのが、凄い!
ともすればエステルさえも重く意識していないことを重視して、無実を信じているからこそ事件から「父親が亡くなった」というファクターのみを取り出して寄り添おうとする切り分け力、凄すぎるぜ、ポー。
あとそれとは対照的に、拘置されるという「自由を制限される」状態から開放された時に必要な「彼女らしさ」を取り戻そうとするやり方、服を揃える…が不器用でかわいいね…。ティリーのエステルのイメージってどうなってんねん。最終的には500ポンドで買いまくった新品服より、ポーの(彼)シャツがお好みなんだって!わはは。
それはそうとして、このポーとエステルの恋人進展って、「ティリーとポーは恋人になったりしないズッ友だよ!」の補強に思えて仕方が無い…。
安心!!
あとビクトリア・ヒュームはなんでそんなにキャルゲの親友ムーブしてくれるんですか?冷蔵庫に食材いれてくれるのやり過ぎだよ!田舎の人ってそうなの??
まあ、女一人でカンブリアの田舎で羊飼いするっていうのに「へ〜頑張って」って肯定してくれるシャップ大好きな隣人は……貴重だ、もんな!
色んな人が色んな人を大切にするやり方、努力の仕方が学べるポーシリーズ。
面白かった〜!
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