新人の電気設備設計者の方へ「電気は何を勉強すれば?」について
電気の勉強って?
この記事を書くきっかけは、実務において新人の方に電気の基礎的な話が通じないことが多いと感じたためです。せっかく電気設備の設計者になれたので、日常業務の一助になればと思い、基本、応用、発展レベルに分けて簡易に解説していこうと思います。
下記のようなレベル感で進めていきます。
● 基本:中学生レベル
● 応用:高校生レベル
● 発展:大学レベル
1. 基本編
電気設備も簡単な電気回路の組み合わせなので、まずは基本的なところからさらっていきましょう。
オームの法則
電気回路において、導体を流れる電流は、その両端にかかる電圧に比例し、抵抗に反比例するという法則です。公式では $${V=RI}$$と表されます。
ワットの法則
定義:電気が行う仕事の大きさ(電力)は、電圧と電流の積に等しいという法則です。公式では$${P=VI}$$と表されます。
オームの法則($${V=RI}$$)を組み合わせることで、$${P=RI^2}$$ や$${P=\frac{V^2}{R}}$$ と計算することも可能です。
キルヒホッフの法則
● キルヒホッフの電流則:定義:回路内の任意の分岐点(ノード)におい て、流れ込む電流の総和と、流れ出る電流の総和は常に等しくなるという法則です。($${\sum I_{\text{in}} = \sum I_{\text{out}}}$$)
● キルヒホッフの電圧則:定義:回路内の任意の閉じた経路(ループ)を1周したとき、起電力(電圧の上がり幅)の総和と、電圧降下(電圧の下がり幅)の総和は等しくなるという法則です。(ループ内の電圧の代数和はゼロになる:$${\sum V = 0}$$)
直列回路と並列回路
部品の繋ぎ方には大きく分けて2種類あります。
● 直列回路(Series Circuit):部品を一本道になるように順番に繋ぐ方法です。
○ 電流:どこを測っても同じ電流が流れます。
○ 電圧:各部品に分散してかかります(足し合わせると全体の電圧になります)。
○ 抵抗:単純に足し算になります。($${R_{\text{total}} = R_1 + R_2}$$)
● 並列回路(Parallel Circuit):部品を枝分かれさせて繋ぐ方法です。
○ 電圧:すべての部品に同じ電圧がかかります。
○ 電流:枝分かれするルートごとに分散して流れます(抵抗が小さい道ほど多く流れる)。
○ 全体の抵抗:部品を増やす(電気の通り道が増える)ほど、全体の抵抗は小さくなります。($${\frac{1}{R_{\text{total}}} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}}$$)
基本編のおさらいと実務への応用
基本編の内容を書いていると、これのどこが電気設備に関わっているのかわからなくなる方は、一度ここを読んでから応用編に進んでください。
基本編のおさらいと実際の設計業務においてどのように生かされているのかを以下にまとめました。
● オームの法則($${V=RI}$$)とワットの法則($${P=VI}$$)
○ おさらい:電流は電圧に比例し抵抗に反比例します($${V=RI}$$)。また、電力(仕事の大きさ)は電圧と電流の積($$P=VI$$)になります。これらを組み合わせると $${P=RI^2}$$や$${P=\frac{V^2}{R}}$$ などの計算も可能です。
○ 実務への応用:機器の消費電力と電圧から必要な「電流値」を逆算し、安全なケーブルの太さや適切なブレーカーの容量を選定する根拠になります。また、配線の距離が長くなるほど電線自体の抵抗が増えるため、末端機器への「電圧降下」を防ぐためのケーブルのサイズアップ計算にも直結します。
● キルヒホッフの法則
○ おさらい:回路内の任意の分岐点において、流れ込む電流の総和と流れ出る電流の総和は常に等しくなります(電流則:$${\sum I_{\text{in}} = \sum I_{\text{out}}}$$)。また、任意の閉じた経路を1周した際の電圧の代数和はゼロになります(電圧則:$${\sum V = 0}$$)。
○ 実務への応用:建物全体に電気を振り分ける「分電盤」や「動力盤」の設計において必須の考え方です。各末端回路(分岐)で消費される電流をすべて足し合わせることで、大元の変圧器や主幹ブレーカーに必要な全体容量を正確に算出することができます。
● 直列回路と並列回路
○ おさらい:直列回路はどこを測っても同じ電流が流れますが、並列回路はすべての部品に同じ電圧がかかり、枝分かれするルートごとに電流が分散します。また並列回路では、部品(電気の通り道)を増やすほど全体の抵抗は小さくなります($${\frac{1}{R_{\text{total}}} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}}$$)。
○ 実務への応用:建築物のコンセントや照明は、すべてに等しい電圧(例:100V)を供給するために「並列回路」で設計されます。しかし、並列回路にコンセントを繋ぎすぎると全体の抵抗が下がり、総電流が大きくなりすぎてブレーカーが落ちてしまいます。この法則が「1つの回路に繋ぐ機器の数を制限し、適切に回路を分割する」という設計ルールの根拠となっています。
2. 応用編
さて応用編ですが、そこまで身構えず気軽にいきましょう。
直流と交流
直流(DC):電圧・電流が時間的に変化しないものを指します。
直流は一体いつ使っているの?なんて思っている方もいるかと思いますが、携帯の内部回路、PC、その他家電の全般が直流で動作しています。一番わかり易いのは、スマホの充電に使用するアダプターです。よく見てみると、入力の電圧・電流・周波数が記載されており、出力には電圧、電流のみになっています。AC/DCコンバータと呼ばれる回路を使用して交流を直流に変換しています。
交流(AC):電圧・電流が時間的に変化するものを指します。
交流はご存じの通り、電力配電、電気設備等に広く使用されています。交流を使用するメリットは変圧(電圧を変える)ことが容易なので、長距離送電や変圧を複数行いたい場所によく使用されます。つまり配電網や電気設備です。
デメリットは、やはり回路に複素成分のコイルとコンデンサが混入することです。
インピーダンス
交流回路の抵抗成分(レジスタンス)と位相成分(リアクタンス)の総称です。少し固い言い方をするならば直流抵抗を複素数に拡張した際の呼び名です。
コイルとコンデンサ
● コイル:導線をぐるぐると巻いた(コイル状にした)構造で、電流の時間変化を妨げる性質を持つ回路素子になります。直流では、ただの導線として振る舞います。交流では、電流が時間的に変化するので、電流が通りにくくなります。(周波数が高くなると高インピーダンス)
● コンデンサ:2枚の金属の電極が絶縁体(誘電体も含む)を挟んで、向かい合わせに配置された構造で、電圧の時間変化を妨げる性質を持つ回路素子になります。直流では、板の間に絶縁体があるため、電荷が溜まると電気が通らなくなります。交流では、電流が時間的に変化するため、電荷の充電と放電を絶え間なく繰り返し、結果として電流が通り抜けているように振る舞います。(周波数が高くなると低インピーダンス)
電力の種類と名称について
交流では電力が3種類に分かれますので、紹介します。
● 有効電力(単位:W):実際に仕事をする電力(光や熱になる)。
● 無効電力(単位:var):コイルやコンデンサでエネルギーの行き来をするだけで、実際の仕事はしない電力。
● 皮相電力(単位:VA):有効電力と無効電力をベクトル合成した、見かけ上の全体の電力。機器の容量を示す際によく使われます。
力率と力率改善
先ほど「電力の種類」で解説した、見かけ上の電力(皮相電力)に対する、実際に仕事をする電力(有効電力)の割合を力率と呼びます。
● なぜ重要なの?:力率が悪い(=無駄な無効電力が多い)状態だと、機器を動かすために必要な電流よりも多くの電流が配線に流れてしまいます。電流が増えると、より太いケーブルが必要になり、電力会社の電気料金が割高になることがあります。
● どう解決する?:設計図面では、この無駄を打ち消して力率を100%に近づけるため、受変電設備に進相コンデンサという機器を設置します。これが「力率改善」と呼ばれる重要設計業務の一つです。
単相と三相について
● 単相:単相交流は、1つの波だけで電気を送る方式です。一般家庭のコンセントにきている電気は、この単相交流です。基本的に2本の電線を使って電気を送ります。
● 三相:三相交流は、位相を120度ずつズラした3つの波を重ねて電気を送る方式です。工場やエレベーター、大型の業務用エアコンなどで使われます。基本的に3本の電線を使って送ります。波がうまく打ち消し合う性質を持っているため、3本それぞれが行き帰りの役割を兼ねており、無駄がありません。
接地
接地には色々な側面がありますので、大きく2つに分けて解説します。それぞれ異なる役目があるので、項目に分けて解説していきます。
● 電気回路の接地とは?:電気回路では0Vの基準点のことを指しています。何に使うのかというと、電圧は、2点間の電圧差を表しています。皆さんの家庭で使用されているコンセントの100Vも接地(0V)と電極の電位差が100Vとなっていることを示しています。
● 電気設備の接地とは?:電気設備での接地は感電の防止、機器の保護、動作の安定とノイズ対策等の対策として接地が使用されています。
3. 発展編
発展編は、説明や理解に必要な数学が大学レベルになるので、できれば細部まで理解して設計に臨んでほしいですが、読まれない文章書くのも寂しいので、簡単に概念の紹介と検索用のキーワードを記載します。意欲のある方はそれを頼りに勉強してみて下さい。
高調波
● 高調波:簡単に言えば「本来のきれいな電気の波(基本波)に混ざり込んで、波の形を歪ませてしまうノイズのような波」のことです。日本の場合は電気の周波数(基本波)は50Hzまたは60Hzですが、高調波はその整数倍(2倍、3倍、5倍など)の周波数を持っています。
● 主な発生原因:非線形負荷と呼ばれる電気機器の使用によるものです。具体的には、電気を効率よくコントロールするために使われる半導体スイッチング素子です。
● 放置すると?:進相コンデンサや変圧器の過熱・焼損、精密機器や保護継電器などが、波の歪みを異常と勘違いして誤動作又は停止を引き起こします。
● 解決するには?:一般的にはパッシブフィルタ(AC又はDCリアクトル)の設置で、近年増えてきたのがアクティブフィルタの設置です。パッシブフィルタは特定の高調波を吸収して対応しますが、アクティブフィルタは高調波の波形をセンサーでリアルタイムに読み取り、それと逆位相の電流を人工的に作り出して相殺させて対応する機器になります。
● 自学習用の検索ワード:フーリエ解析(フーリエ級数展開)、交流回路理論
過渡現象
● 過渡現象とは?:スイッチを入れた瞬間や切った瞬間、あるいは落雷時などに、電気の振る舞いが「定常状態(安定した状態)」に落ち着くまでの間に生じる電圧や電流の急激な変化のことです。空のバケツに勢いよく水を入れると最初は水しぶきが跳ね、やがて水面が落ち着くように、電気の世界でも状態が切り替わる一瞬に激しい波立ちが起きます。
● どんな影響が?:この一瞬の変化によって、通常の何倍もの巨大な電流(突入電流)が流れたり、サージと呼ばれる異常な高電圧が発生したりします。例えば、大型モーターや多数のLED照明などは、電源を入れた瞬間に大きな突入電流が流れる性質があります。これを無視して計算すると、通常運転時の電流は問題ないのに「スイッチを入れた瞬間に毎回ブレーカーが落ちてしまう」といったトラブルや、サージによる精密機器の破壊を引き起こします。
● 考慮した設計は?:機器が起動する一瞬の突入電流では落ちず、本当の異常(短絡など)の時にはしっかり電気を遮断できるよう、ブレーカーの動作特性(モーター保護用ブレーカーなど)を適切に選定します。また、サージ(異常電圧)から機器を守るための設計も行います。現象を数学的に解くには大学レベルの「微分方程式」が必要ですが、実務においては「機器の起動時にどれくらい電流が跳ね上がるか」をメーカーの仕様書から正しく読み取る力が求められます。
● 自学習用の検索ワード:過渡現象、突入電流(インラッシュ電流)、開閉サージ、微分方程式
短絡と保護協調
● 短絡とは?:電気回路において、配線同士が直接触れ合ってしまうなどの異常事態を「短絡」と呼びます。本来電気が通るべき機器(抵抗)をショートカットしてしまうため、回路には通常の何十倍、何百倍もの莫大な「短絡電流」が瞬時に流れます。この衝撃に耐え、安全に回路を切り離せる遮断容量を持ったブレーカーを選ばなければ、機器の爆発や火災といった大事故に直結してしまいます。
● 計算手法について:その恐ろしい短絡電流が「最大でどれくらい流れるのか」を予測し、適切な機器を選定するために用いるのが「パーセントインピーダンス(%Z)法」です。変圧器やケーブルが持つインピーダンス(抵抗成分)を、基準となる容量に対するパーセント(%)に置き換えて計算します。これにより、複雑な受変電設備のネットワークであっても、短絡電流の大きさを比較的シンプルに算出することができます。
● 保護協調の考え方:もし建物の一部で短絡事故が起きた際、大元のメインブレーカーが真っ先に落ちて建物が「全停電」してしまったら大惨事です。これを防ぐための設計思想が「保護協調」です。大元のメインブレーカー(上位)は落とさず、事故が起きた箇所を直接保護している分岐ブレーカー(下位)だけを瞬時に落とし、他の正常なエリアの電気は生かし続けられるよう、各ブレーカーが作動する「電流値」と「時間」のバランスを計算して設定します。被害範囲を局所的に食い止める、設計の要となるテクニックです。
● 自学習用の検索ワード:短絡電流計算、パーセントインピーダンス法、%Z法、保護協調、過電流継電器(OCR)
自学習用の参考書籍又はwebサイト
● 電子回路設計 入門サイト:https://www.kairo-nyumon.com/electric_basic.html
● 電気回路の基礎(第3版):https://www.morikita.co.jp/books/mid/300301
いいなと思ったら応援しよう!
ありがとうございます。