ロシアの8月は、甘くて香ばしい
子どもの頃、8月19日は特別な日でした。それは母の誕生日でもあり、母がいつも笑顔でこう言っていたからです:「私はリンゴのスパスに生まれたのよ」それですべてが説明された気がしました。
夏の最後の暖かい日々、田舎の庭でとれたリンゴのバスケット、そして夏に初めて焼くリンゴのケーキ大きな鉄製のスキレットで焼くシャルロトカ。私たちはいつも一緒にそれを作りました。リンゴを切って、生地を流し込む。ただのおいしいケーキではなく、夏の終わりと秋の始まりを告げる、そんな儀式のようなものでした。

「スパス」って何?
「スパス(Спас)」という言葉には、2つの意味があります。ひとつは「救い主(Спаситель)」の略で、キリストを指す宗教的な意味。もうひとつは、「備える・蓄える(запасать)」という意味に由来するという説。ちょうど8月は、蜂蜜・果物・ナッツなどの収穫が行われる時期。昔の人々は、これらの「地の恵み」を神に感謝し、教会で祝福を受けてからいただくという習慣がありました。つまり、スパスは精神的にも、物質的にも、感謝と分かち合いの季節なのです。
ちなみに、ロシア語の「ありがとう(спасибо)」も、「神よ、救い給え」が語源です。
8月の三つのスパス蜂蜜、リンゴ、ナッツ

🍯 はちみつのスパス (Медовый Спас)8月14日
最初のスパスは蜂蜜に捧げられた日。巣箱から蜂蜜を取り、教会で祝福を受けた後、持たざる人に分け与える習慣がありました。「最初のスパスには貧しい人でも蜂蜜を味わえる」と言われました。
🍏 りんごのスパス (Яблочный Спас) 8月19日
三つのスパスの中で、最も有名で詩的な祝日。正教会では「主の変容(Преображение Господне)」の日とされます。この日までは、新しいリンゴを食べるのを控えるという習慣がありました。最初に食べる前に、教会で祝福してもらうというのがルールです。この伝統の背景には、次のような精神があります:「まず神に、そして自分に」地の恵みへの感謝の表れです。この日は教会で果物を祝福し、その後、貧しい人々や子どもたちにもリンゴを分け与える風習がありました。
この日は、リンゴを使った料理が食卓を彩る日でもあります。生のリンゴ、焼きリンゴなど。私と母はその日にいつもシャルロトカを焼きました。あの特別なスキレットで。
🌰 ナッツのスパス(Ореховый Спас)8月29日
この日から森でハシバミ(ヘーゼルナッツは、丸くて薄い殻をもつ木の実です)を拾い始めることができました。新しい収穫の小麦で焼いたパンやナッツを教会に持ち寄り、感謝の祈りを捧げました。「三番目のスパスは冬のためのパンの備え」と言われました。また、最後の麦の穂で花輪を編み、アイコンの下に飾ったり、家にパンを迎え入れる習慣もありました。
そして、私たちにとっての意味は?

一見すると昔ながらの習慣。 私たちは都会育ちで、自分で小麦を育てることはありませんが、趣味の養蜂や庭のリンゴの木など、日本でも親しみやすい光景ですよね。実際は今でも心を温めてくれる、そんな生きた伝統です。私にとってのアップル・スパスは、感謝と自然とのつながり、そして家族との記憶を思い出す日です。そして、あのシャルロトカ用のスキレットも、重かったけれど日本まで持ってきました。たとえリンゴが田舎の庭ではなく、スーパーのものであっても。そしてオーブンでシャルロトカが焼けていれば、すべてが「あるべき場所にある」と思えるのです。
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