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【小説】「誰も見ていないところで」第九章

朋樹「ママが絶対にしないこと」

「おかえりー。今日このあと、ほっとすぽっと行かへん?」
 五月二十二日木曜日、学校から帰ってきておやつを食べていたら、兄ちゃんが帰ってきたので誘った。
「ただいまー。いいよ。行こうか。特に誰かに会うってわけでもないんよね?」
「うん、べつに。誰が来てるかわからないけど行ってみようよ。桂木さんには正直あんまり会いたくないけどね」
「うん、佐藤さんや藤堂さんに会えるだけでもいいしね」

 兄ちゃんは急いでおやつを食べ、仕事中のパパに「ちょっと公民館へ行ってくるよ」と声をかけた。そうして三時半頃、二人で公民館へ向かった。

 公民館へ着くと、佐藤さんと藤堂さんがいた。
「今日は藤堂さんもいる!」
「こんにちは。最近はどう?」
「うん、元気だよ」
 佐藤さんと藤堂さんが笑顔で顔を見合わせてる。
「今日、ほっとすぽっとは誰がいますか?」
「あ、今日はなんとね、田ノ上さんと、高山さんのペアなんよ」
「へぇ! シャッフルしたんだぁ」

 和室へ行くと、田ノ上さんと高山さん、あとは三人の小学生がいた。
一人で折り紙をしてる子と、あとの二人がオセロをしていたので、折り紙をしている子を誘ってぼくらは三人でトランプをした。

 だけど、ぼくは神経衰弱で最下位になってしまった。悔しくて和室を飛び出した。やらなきゃよかった!

 廊下に出ると、談話室に信輔くんがいるのが見えた。すごい久しぶりだ!
「信輔くん!」とぼくが呼びかけるとこちらを見て、信輔くんは持っていたシャープペンシルを落とした。

「朋樹、久しぶり」
 拾いながら信輔くんが言った。
「信輔くん、何してるの? 和室に来てよ」
「あぁ、宿題。朋樹は宿題は? ちゃんとやってる?」
「そんなの寝る前にやってるよ。遊べる時間は遊ばないともったいないよ」
「自由やなぁ」そう言って信輔くんは笑った。

「朋樹、もう神経衰弱やらないの」
 兄ちゃんがぼくを呼びに来た。
「兄ちゃん!信輔くんが来てたの。久しぶりだよ」
「……あ、こんにちは」
「おぉ、直樹も来てたんや。珍しい」
「はい……」
「ねぇ、信輔くん。ぼくのママ、一ヶ月前にここで死んじゃったんだ、知ってた?」
「あぁ、うん、聞いたよ……つらいよな」
「知ってたんだ」
「うん」
「朋樹、信輔くんは宿題やってるんだから、邪魔しちゃだめだよ」
「あ、別にええよ、もう終わるから」
「それなら信輔くんと話したいな」
 そう言ってぼくは、信輔くんが座っている四人掛けのテーブルの椅子に腰かけた。

「おや、面白い組み合わせで」
 そう言って佐藤さんが事務所から顔を出し、こちらへ向かって歩いてきた。
「信輔くんは週に二、三回は来てるけど、ほっとすぽっとのない日だったり、あっても和室には寄らずにここで宿題やってたりもするからね。なかなか出会えないレアキャラだと思うよ」
「やったぁ! 神経衰弱で負けたおかげで会えたんだ」
 そう言うと、信輔くんは笑った。
「信輔くん、ぼくらね、探偵になって、ママの真相に迫ろうとしてるの」
「朋樹! ダメだよ!」
 信輔くんと佐藤さんが兄ちゃんの大声にビックリしていた。

「……朋樹、なんで」
「だって。信輔くんにはいいでしょう」
「ダメだよ、もう帰るよ」
「なんでぇ、せっかく信輔くんに久しぶりに会えたのに」
「ねぇ、《真相に迫る》って、どういう意味?」
 信輔くんがぼくを見ている。

「だって、ママがぼくらを置いて死んじゃうなんて、信じたくないんだもん」
「朋樹ぃ……」
 兄ちゃんはあきれ顔で、ぐったりしてしまった。

「朋樹くん、もし私たちでよかったら話聞かせてくれへん? 信輔くんも、ここで聞いた話を、絶対他のところで口外しないって約束してくれる?」
「はい、もちろん」

 四人掛けのテーブルにちょうどで座って、ぼくは、お赤飯の話から始めた。ママの大好物で、あの日、帰ってきてから食べるのを楽しみにしていたこと、自分の分も残しておいてと言ってでかけたこと。

「なるほどね……樫村さんの大好物だったとは。そういう情報って、どんな物的証拠よりも重要な気がするね」
 佐藤さんは考え込みながら言った。

「ママはお赤飯が好きで、お祝いがなくてもよく作ってました。とは言っても、お祝いの日に作る料理を、自分が死ぬって日に作るかなっていう違和感もあって……」
 兄ちゃんも話し始めた。

「お赤飯か……俺は好きじゃないな、甘いご飯なんて」
 信輔くんの言葉は、みんなにも聞こえたはずだけど、誰も何も言わなかった。
 ぼくは、「あれ?」と思い佐藤さんの顔を見た。
佐藤さんも何か言いたそうな顔をしてぼくを見た。

「あれ、信輔くんのママって、北海道とか東北の人なの?」
「え、違うけど? いきなり何?」
 ぼくは次に何を言えばいいのかわからなくなって困っていたら、佐藤さんがこう言った。
「信輔くん、わかるわ。あの甘いご飯はちょっとイヤよね。それに黄色い豆・・・・が入っているご飯なんてね」
「え……」ぼくはちょっと悲しくなって、佐藤さんを見ると、ぼくを見て軽くうなずいた。
 佐藤さんの目が(大丈夫、ちょっと任せて)と言っている。

「そうですよね、豆ごはんにしてもちょっと……」
 信輔くんはホッとしたように佐藤さんを見て言った。

 ママが作るお赤飯、いつもは茶色の甘納豆が入っているんだけど、あの日は、珍しいひよこ豆の甘納豆で黄色だった。ぼくも兄ちゃんも初めて食べた。でもおいしかったのに。

——あれ? 信輔くんは食べたの? ママがあの日作ったお赤飯を。

 小豆いりの、ごましおがかかったお赤飯をこっちでは見るけど、北海道や東北の一部、あとは山梨県では甘納豆入りのお赤飯を食べるのだと、「日本全国ご当地ごはん」という本で読んでぼくは知ってる。
 ママは関西に来て、スーパーのお総菜売り場で、北海道とお赤飯が違うことを知って驚いたって話を、前にぼくらに聞かせてくれたことがあった。

「ねぇ、信輔くんはどこのお赤飯が好き?」
 気になってぼくはきいてみた。
「どこって……何? 俺は食べたことも買ったこともないよ。うちはそういうの作らへんし」

「ねぇ信輔くん。ちなみにだけど……一ヶ月前の四月十七日、夕方にここに立ち寄ってくれたりしたんやない?私はいなかった時間やったと思うけど」
「なんでですか、その日は来てないですよ」
 信輔くんの様子がなんとなく変な気がした。
 一ヶ月以上前の日付を言われて、何も確認せずにすぐに「行ってない」って言えるのすごくない?
 兄ちゃんのことをちらっと見ると、不安そうに佐藤さんのことを見つめている。

「信輔くん、ちょっと悪いんやけどね、倉庫にあの段ボールを運ぶの手伝ってもらってもいい?」
 佐藤さんは、談話室の角にあった大きな段ボールを指さして言った。箱には《アルファ米 非常食5年保存》と書いてある。
「あぁ、いいですけど……」
「あなたたちはここにいて」
 佐藤さんは、ぼくらにそう言って、事務室の中の藤堂さんに何か声をかけていた。
「信輔くん、こっちこっち!」
 佐藤さんは、信輔くんを倉庫の中に招き入れようとしていた。

 兄ちゃんが、とっさに「朋樹はここにいて」と言って、倉庫の方へ行った。
 ぼくも行く!と言って、兄ちゃんのあとについていった。

 信輔くんが段ボールを両手いっぱいに抱え、「どこに置きますか?」と言っていた。よほど重いのかな、信輔くんは震えている。

「信輔くん、大丈夫……?」

「あの日、段ボールがいくつかつぶれちゃってね。備品をいろいろ買い直してるのよ」
 佐藤さんは、信輔くんにだけ向かって言った。
「兄ちゃん」
 ぼくはなんだか胸がどきどきして、兄ちゃんにコアラのように抱きついた。

「あの日、踏み台に使った段ボールがね、つぶれちゃって。中には非常食のお米が入っていたのよ」
 兄ちゃんが目を見開き、「佐藤さん、踏み台って、ママが……?」
「ええ、そうよ」と言ってまた信輔くんを見ている。
「ママがそんなん踏むわけない!」
 突然、兄ちゃんが大声で叫んだ。

「食べ物が入っていた箱でしょ?ママは食べ物を粗末にするのをすごく嫌がって、米粒一つ残すのもダメって言う人だったんだよ」
「直樹くん……」
 佐藤さんが、悲しそうにぼくらを見ている。ごめんね、って顔をしている。

「それにママが公民館のみんな・・・の非常食を踏むなんてありえない。人に迷惑をかけるのをすごく嫌うんだよ。ましてや災害用の大事な食べ物を無駄にするようなこと絶対にしない。ママは公共心の強い人なんだよ!」
「……なんだよ、それ。死のうとする人間が、何が入ってる段ボールかなんて気にしないだろ。そんなの気にすることもできないくらい追い詰められてるから、そんな死に方するんだろ」
 信輔くんが段ボールを乱暴に置き、怒っている。

「信輔くん……どういうこと」
 ぼくはわけがわからなかった。

「信輔くん、この子たちは大事なお母さんを亡くしてるんよ。お願い、言葉には気を付けて。そして、あなたが公民館に来てくれると、私たちも子どもたちも、みんな嬉しかったことも嘘じゃないんよ。一体なにがあったか、教えてくれへん?」
「なんで……俺は自分の人生を守りたいだけや!」
 信輔くんが倉庫を飛び出そうとした。そこに藤堂さんが来て、信輔くんを抱きとめた。

「信輔くん、大丈夫や。心配いらん、何かつらいことがあったんよな」
その途端、信輔くんの泣き叫ぶ声が公民館中に響いた。

 和室にいた五人も出てきて、泣きわめく信輔くんをしばらく見守っていた。

 信輔くんは、藤堂さんと一緒にパトカーに乗り、静かに去っていった。
パトカーがいなくなったら、パパが迎えに来てくれているのが見えた。


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ayyyaNO.1(。д。) @xxayakaxx0714・2025/04/16
娘の保育園から電話
最近お迎え遅れがちだから気を付けてって
どういうこと?って息子にきいたら
うっさいなんで俺が毎日いかなあかんのって
何?
旦那帰らんし息子もこんなんなら生きてけへんやん
まさか彼女できたん?でも何も言わへん
絶対黒。許さない一人前の男みたいな顔すんな
あたしと娘はどうなるんよ

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