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私は一体、長男に何を望んでいたんだろう。

現在小5の長男が生まれてすぐ、想像してワクワクした光景がある。

このふにゃっとした赤ちゃんがいつか小学生になって、授業参観で、嬉しそうに私を振り返り、手を振ったりするようになるんだろうか?!

その日を心の底から楽しみにしていた。

しかし、待ちに待った小学1年生の授業参観は、コロナ2年目で一度も開催されず、無念であった。

「オンラインでもいいから授業の様子を見せていただけませんか」と担任の先生に手紙を書くと、後日、体育館での活動の動画を配信していただけた。

そんなんだったから、翌年、リアルタイムで参観できた喜びは忘れられない。

そんなわかりやすく重たい愛情を示していた私だが、「子に幸せに生きてほしい」という願いが、なぜか気づけば、「賢い子になってほしい」という思いにすり替わっていた。しかも長男にだけ。

親バカ承知で言うと、長男には幼少期から我が子とは思えぬ知的好奇心の幅と、理解の速さを感じたので、名門に行ける子だと信じ、わからないなりに、「中学受験」へ誘導をするようになった。

小4まで彼はZ会の中学受験コースをコツコツ自分で計画を立ててこなしていた。自慢だった。こんなだらしない母親なのに、我が子は……と。
「Fラン大卒の母でも息子を名門に」というブログであぶく銭を稼ぐ構想まで描いていた。

しかし、4年生の秋、塾のテストを受けに行き、その後入塾の話をしていると、長男は言った。
「あんな場所で勉強したくないよ」と。

「なんでだよ。塾に行けば、あの名門中学も夢じゃない」とハッパをかけた。妄信していた。うちの子が行かずに誰が行くのかと。

スゴイと言われたかった。
「知子さん、どうやって導いたの?」ともてはやされたかった。
鼻の下を伸ばして「いやいや、私の知らない間に息子が努力してて……」と謙遜と自慢の中間路線を気持ちよく爆走するつもりだった。
なんと浅ましい、気持ちの悪い承認欲求だろう。

4年生もまもなく終わろうかという3月のある日、長男は、「友達の入ってるチームでいっしょに少年野球をやりたい」と言った。

「少年野球か……やりたいならやったらいいけどさ、それで受験も頑張れるの?」

「受験はしたくない。ママが期待するから頑張ってみたけど、僕がやりたいわけじゃなかったわ」

「……マジ……?」

自分をときどき顧みて、
「自分の学歴コンプレックスを我が子への教育熱心にすり替えるようなことだけはしたくないわ」と思っていたのに。いや、まんまそれじゃん。マジか。やりたくなかったってか。すっかり本人の意思と思い込んでいた。

一時はその気になったかもしれないけど、途中で「あれ? これ僕の意思じゃない」って気づいたんだろう。ごめん……

それならとZ会中学受験コースはやめ、普通のコースに切り替えた。そして少年野球を始めた。

それでも私は内心諦めがつかず、微妙な心境だった。中学受験を目指して塾に通っている子のお母さんたち一人一人に「どうやってやる気を維持させてるんですか?」と聞いて回りたい気分だった。

しかし、日が経つにつれ、ホッとしている自分に気づいた。
長男に伴走して頑張らなきゃいけないと思っていたので、頑張る必要がなくなって肩の荷が降りたのだ。

長男は、自らやりたいと思わないものはやらない、という意思表示が強くなり、毎月来るZ会も、ついに先月ストップした。一年前の私が聞いたら「え! いいの?」と驚くだろう。学習習慣を身に付けさせるのは親の務めなんじゃないかと思っていたから。

今も自信はないけれど、子どもは自分が必要だと思ったものから知識を吸収していくだろう。そして、このままじゃまずいと思えば自分で勝手に焦るだろう。そう考えるようになったのは、ごく最近のことだ。

そんな矢先に、長男の生活に変化があった。

先週から学校へ行けなくなった。

前触れはあった。
その前の週に、やんちゃな子の悪ふざけとちょっかいに長男はキレて掴みかかり、それに対して「怒りすぎちゃう?」「もっとやれー」とヤジを飛ばされたようだ。担任の先生からも連絡があり、「何か我慢している様子」と教えていただいた。

長男に聞けば、口の悪い子が増えてきていて、教室の雰囲気が嫌だという。特にその中心人物の子を恐れているようでもあった。

休むようになってから、担任の先生が毎日電話をくれる。退勤後に訪問してくれる日も。
最初は気まずそうに遠慮していた長男だったが、家でやっているゲームの話を玄関先でしたらしく、先生にその進捗を見せたいからと、散らかり放題のリビングに上がってもらった。下の子たちも喜んで、長々と引き留めてしまった。

週末、長男は少年野球に出かけ、ひさしぶりに気の置けない仲間と楽しんだようだ。

ただ今週も、学校へは行けていない。

小2の次男は、給食から登校するというスタイルを初夏から貫いているため、朝は長男と次男、2人でゲームやYouTubeで盛り上がっている。

今日も次男を12時過ぎに学校へ送ると、校長先生が「長橋さん、どうぞ」と、校長室へ招き入れてくれた。今年度PTA役員をしているので、話す機会が多かったことが、今ありがたく身に沁みる。

私は今の不安を赤裸々に話した。
嫌なら休めばいいと思う反面で、嫌な思いをしている我が子が休まなきゃいけない状況がつらいこと。
口の悪い中心人物の子のことを、数年前から「良心のブレーキが少し弱いように感じる」と思っていたこと。

校長先生は理解してくださり、対策をより真剣に考えたいとおっしゃった。「お母さん、溜め込まずにまた話しに来てください」という言葉に泣きそうになった。

長男がまた学校へ行こうと思える日がくるだろうか。
正直、わからない。
それでも今は、たっぷり休んで、「そろそろ行ってみようかな」と思えるまで、エネルギーを蓄えられたら。

授業参観で、また長男の後ろ姿をまた見られるだろうか。
いや、授業参観じゃなくてもいいか。ただ、彼が楽しくいてくれたら。
これからは野球の練習をたくさん見に行こう。

夜ご飯に唐揚げを作ったところ、長男は弟と妹と奪い合うように食べた。
そしてしみじみと「この家、好きだなぁ」と言った。
それでいい。それで十分なんだと、私はこの秋、やっと理解できたのだった。



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