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「全部乗せ」ができない僕たち。なか卯のカウンターで気づいた、24年間の『温存』の呪縛

朝、なか卯のカウンター。僕は、納豆定食という名の「決断」を前にして、5秒ほど固まっていた。

目の前には、納豆、卵、海苔。この朝食の「三種の神器」が、整然と僕を待ち構えている。

普通に考えれば、これらをどう組み合わせようが僕の勝手だ。だが、24年間、霞が関という「リソースの温存」を美徳とする世界で生きてきた僕の脳内では、無意識に冷徹なシミュレーションが走っていた。

「いま全部使ってしまったら、最後の一口の楽しみが減るのではないか」

納豆だけで一杯。海苔だけで数口。そして最後に卵かけご飯で締める。そうやって「楽しみ」を細分化し、将来に分散させることこそが、知的な大人の振る舞いである。そんな、ケチ臭くも堅実な官僚的OSが、僕の右手を縛り付けていたのだ。

だが、その瞬間、僕の脳裏にある考えがよぎった。

納豆と海苔、そして卵。それらを一堂に会させ、一つの爆発的な体験に昇華させる。それは贅沢でも、無計画でもない。ただの「美食の最適解」だ。

なぜ僕は、このたかが数百円の朝食においてまで、「次に来た時のための余力」を残そうとしているのか。

霞が関を支配する「エリクサー症候群」

この、なか卯のカウンターでの逡巡。それは、ファイナルファンタジーで最強の回復アイテム「エリクサー」を、一度も使わずにラスボスを倒してしまう、あの滑稽な心理と根っこで繋がっている。

公務員時代、僕たちは常に「万が一」に備えていた。予算も、人員も、自分自身の気力も、どこかに必ず「余白」を残しておかなければならない。不測の事態。国会からの急な呼び出し。国民からの厳しい追及。それらに対応するために、僕たちは「いま」という瞬間を常に80%の出力で抑え、残りの20%を来ないかもしれない未来のために死蔵していた。

「あとで使う」ために、「いま」を犠牲にする。

その結果、何が起きるか。中ボス戦(日々の重要な決断)でエリクサー(全リソース)を使わなかったせいで、組織は疲弊し、政策の鮮度は落ち、最後には使われなかった予算や情熱だけが虚しく残る。

なか卯の海苔を一枚残したところで、次回来る時にその海苔が僕を救ってくれるわけではないというのに。


未来への怯えを、卵とともに溶かす

「もったいない」という言葉は、しばしば美しい美徳として語られる。けれど、なか卯の冷たいカウンターで、納豆のパックを開ける微かな音を聞きながら、僕は直感した。

これは、未来に対する「怯え」の変装だ。

いま目の前にあるものを最大限に味わい尽くす自信がないから、僕たちはそれを分割し、薄め、引き伸ばそうとする。経済学で言うところの「時間割引率」や「損失回避バイアス」なんて小難しい言葉を持ち出すまでもない。僕はただ、一気に幸福を受け取ることを怖がっていただけだったのだ。

僕は意を決して、卵を割り、納豆と混ぜ合わせ、海苔で巻いて口に放り込んだ。

混ぜた。食べた。うまかった。それだけのことだった。

「現在価値」を最大化する、プロフェッショナルの覚悟

「全部乗せ」を許容することは、単なる放蕩ではない。それは、自分のリソースを信じ、未来の自分に「また稼げばいい」「また作ればいい」という全幅の信頼を置く行為だ。

リソースの死蔵は、機会損失という名の「罪」である

民間のAI企業に移ってから、僕は「スピード」という名の別の暴力に晒された。そこでは、エリクサーを温存する者は、そもそもリングに立つ資格すらない。

今日、なか卯で納豆と卵と海苔を一度に使い切るという決断を下せたことは、僕にとって単なる朝食の作法ではなかった。それは、未来への不確実性を「いまこの瞬間の熱量」で突破するという、プロフェッショナルとしてのOSの書き換えだった。

10年後の自分に、エリクサーを残すな

もしあなたが、今、何かを「いつか」のために温存しているなら、問いかけてみてほしい。

その「いつか」に、今のあなたと同じ情熱や、味覚や、感受性が残っている保証はどこにあるのか。

なか卯のカウンターで僕が掴んだ真実は、残酷なまでにシンプルだ。

「いま」使い切らなければ、そのリソースは、あなたの人生に一度も存在しなかったのと同じなのだ。

お気に入りの服を、最高に輝ける今日に着る。最強の言葉を、一番伝えたい相手に今すぐぶつける。そして、なか卯の三種の神器を、一つの茶碗の上で完璧に融合させる。

その小さな「全部乗せ」の積み重ねこそが、未来の自分に対する、最高の投資になるのだと僕は確信している。


#なか卯 #行動経済学 #エッセイ #エリクサー症候群 #決断力 #リスキリング

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Hiroyuki A いつも温かい目で読んでくださり感謝しております。この記事が少しでもお役に立てたなら嬉しいです。皆さんからの応援が私の創作エネルギーとなっています。スキやコーヒー一杯のチップをいただけると創作の大きな励みになります。これからもよろしくお願いします。​​​​​​​​​​​​​​​​