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Story of Vulcan「火星の鉄屑」[Mars's Scrap iron]

Vulcanヴァルカンとは、
Marsマーズがガラクタ星で目を醒ました後、
最初に拾って道具にした
鉄屑てつくず」である。



Image by https://unsplash.com/


ようこそ、火星劇場へ。

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Scrapyardガラクタ星 ——


マーズは食べるものを探していた。
黄色い木の実を見つけたが、高いところにしか熟れている実がなかった。

その辺に落ちていた長細く尖った鉄を拾い、ケガをしないように、身に着けていた衣服をちぎり鉄屑に巻きつけて持ち手を作った。
その鉄屑で、高い所に実が成っている枝を切り落とすと、スパッという音が聞こえるほどに軽やかに枝が切り落とされた。そのあまりの切れ味と空気を切り裂くようないい音に感心したマーズは、その後その鉄屑を丁寧に研いでやり、身を守るための武具にした。


・・・


それから数千年の時を経て、その剣に魂が宿った。 その魂は、何度も彼女の手のひらの中で滅亡の一途を辿っていた、Marsという星の記憶を持っていた。

彼は生前の自分の名前も顔も覚えていなかったが、刀を作る仕事をしていたことだけは記憶に残っていた。マーズがこの剣に「ヴァルカン」という名前をつけて、何千年もの間磨き続け、使い続けていたことから、無意識にこの剣を自身の次の器に選んだのだろうとヴァルカンは話す。

彼女の腰に携えられ、生きるための狩りをし、それ以外の時は四六時中真剣に星を見守り記録し続け、改善しようとしている彼女の姿を見続けたヴァルカンは確信した。

全ての武具は、この方に愛されるべきだと。


それから数十年後。

突然ヴァルカンの声が聞こえるようになったマーズは、この剣に人の姿になれる呪いをかけてやることにした。儀式が終わり、ヴァルカンが目を醒ました時、彼は自身の見た目のあまりの美しさに感動し、一滴の涙を堕とした。

マーズは驚き「なぜ泣いている?」と尋ねた。

するとヴァルカンは力なく答えた。

「私は、私は醜くおぞましい人間のはずなのです」
「もし私がかつての姿で生まれていればあなたも……」

マーズは少し間をおいてから「人間?」と聞き返した。

ヴァルカンは、マーズの傍で剣として存在し続けるうち、生前の記憶が戻りつつあった。篝火を見つめながら、マーズに生前の自身の身の上をポツリポツリと話しはじめた。
最後の人間としての人生に、非常に強い憎しみと後悔の念を抱いていた。

彼の人生は、とても恵まれているとはいえない過酷なものであった。




・・・



鉄の記憶

▞▞▞▞は栄華を誇る帝国の貴族の第一子として誕生した。しかし、彼には生まれつきの身体的な障がいがあった。生まれてきた彼を一目見た両親は激しく怒った。

「こんな子が欲しかったんじゃない」
「こんなみにくい子はうちを継ぐのに相応しくない」

▞▞▞▞▞の実の両親は、この醜い子にはお金を掛けたくないといい、子どもを処分するように命じた。

ヴァ▞▞ンがこのことを知ったのは、13歳になった頃だった。

生まれたその日に足を切断しなければ命がないとまで言われていた彼の命運を託された使用人は、両親らのあまりの心無い発言に対して内心軽蔑していた。両親は処分を望んでいたが、使用人自らが密かに病院に連れていって手術を受けさせ、使用人の目の届く国内で子どもを授かれず養子を求めていた夫婦を探し、ある心優しき夫婦のもとに預けられた。

その夫婦は町はずれで小さな鍛冶屋を営んでいた。商品として取り扱っているのはどれも、生活用品ばかり。切れ味のいい包丁は、巷ではちょっとした名物で、国外からその評判を聞きつけて買いに来る通な商人もそれなりにいた。

夫婦は、ヴ▞▞カンに生まれつき身体障がいのあることには一切触れず、彼を普通の子どもと変わらずに育て上げた。学校では障がいを持っていることで浮いてしまうのではないかと心配していたが、ァルカンは頭がよく成績優秀で、手先も器用だった。他の子から尊敬されており、勉強の相談までされていたようだった。誰がどう見ても、普通の子と変わらないヴァ▞▞ンに担任の教師も感心し、両親に嬉々として話していたほどだった。

成長するうち、ヴルカンは父・ペウレスの鍛冶仕事に興味を示した。ペウレスはそのことをとても喜んで、時々仕事をしているところを見せてやった。ヴァカンは車いすに座り、ペウレスが鉄を打っている後ろ姿を見つめながら、その様子を絵に描いていた。いろんな形の武器もあったが、父親が力を入れていた生活用品は特にどれも精巧な造りで、まだ幼いヴァル▞▞から見ても、素晴らしいものであることが分かった。

▞▞ルカンはよく「僕大きくなったらお父さんみたいな鍛冶職人になりたい!」と言っていた。
その度にペウレスは「鍛冶職人とは人の生活のための道具を作る仕事だ」と話していた。


・・・

鉄の諱

ぺウレス「この鉄は、使う人間によって悪い道具にもいい道具にも変えられる。だが、この鉄にはそのどちらかを選択する権利がない」
「石を投げる人間もいれば、石を拾って大事に愛でる人間もいるだろう?」

▞▞▞▞▞「河原の石が大好きな友達がいるからわかるよ」

ぺウレス「うん。石を手に持つことは誰にだってできるね。お友達は一つ一つ形のちがう石に、不思議と心惹かれるんだろうね。お父さんも子どものころそうだったからわかるよ」

▞▞▞▞▞「でも石を投げることは、悪いことだよね?石をぶつけられた人はケガをしちゃうから、石は悪い道具になっちゃうけど、でも石は悪くないってこと?」

ぺウレス「そうだよ。石にはなんの罪もないのさ。この世界にあるものすべてに、罪はないんだ。だけどね、人はそうもいかないのさ」

▞▞▞▞▞「どうしてなの?」

ぺウレス「人間は頭がいいからさ」

▞▞▞▞▞「頭が良いことは悪いことなの?僕は、僕先生にいつも頭がいいねっていわれるよ、僕は悪い子なの……?」

ぺウレス「違うよ。さっき言っただろう?思い出してごらん?」

▞▞▞▞▞「えっと……石は悪くないってこと?」

ぺウレス「そうさ。それと同じなんだ。いいかい?頭のいい人間はいろんな道具を使えるようになった。お父さんが造っているこの道具たちも、人間にしかちゃんと使えない。だけど人間は、これを危険なことにも使ってしまえるんだ」
「お父さんは昔、悪い人のために武器を造っていたことがあるんだ。お給料はよかったし、今よりも豪華な暮らしができた」
「けれどね、自分の造った武器で、たくさんの命が奪われていることがどうしても赦せなかった」
「その手伝いをしている自分が悪い人間になっているように思えたんだ」
「だからその仕事をやめて、自分でこのお店を開いたんだ。ずっと売れなかったけれど、或る時、ふらっと立ち寄った女の人が包丁を買ってくれてね」「それがお前の母さんだよ」

▞▞▞▞▞「そうなの!?」

ぺウレス「ああ、まさか結婚するとは思ってなかったけれど。父さんが造った包丁を、母さんはべた褒めしてくれたのさ。それから何かある度に包丁を研いでくれって店にくるようになってね」
「父さんは母さんに、わざわざ店にくるなら、この砥石をあげますよって言ったんだ。そしたら母さん怒りだしてね」

「父さんに向かって『私は貴方のことが好きなのよ!』ってぷんぷんしながら言ったんだ」

▞▞▞▞▞「それで父さんと母さんはけっこんしたの?」

ぺウレス「そうだよ。僕は、こういう人のためだけに、道具を造っていたいって思ったんだ」

▞▞▞▞▞「父さんってかっこいいね!」
「僕も父さんみたいな鍛冶師になるよ!」

ぺウレス「ああ、大事なのはこれだけだ。誰のために道具を造るのか。これだけ忘れずにいれば、立派な鍛冶師になれるよ」

▞▞▞▞▞「うん!わかった!」


・・・


それからも▞▞▞▞▞は、学校がある時以外はずっと父の仕事を見続けていた。

ある歳の誕生日のこと。
ペウレスは▞▞▞▞▞の足にぴったりの義足を作ってプレゼントした。
ヴァ▞▞▞は、これでようやく一人で自由に歩くことができる。何よりも、両親に自分の世話で迷惑を掛けずに済むと思った。

しかしヴ▞▞▞▞は、外に遊びに行くかと思いきや、父の仕事を手伝うようになった。夜には工房に籠って、昼間見た父の仕事を思い出しながら、見様見真似で鍛冶の技術を学び始めた。その様子に気付いたペウレスは▞▞▞▞▞に、お手本の小さなナイフを造って渡した。

工房の中だけで練習のお手本にするためだけに使い、外に持ち出さないことを約束して。

しかし彼は、このナイフを肌身離さず身に着けた。父のような素晴らしい鍛冶師になるという夢を抱いた、その御守りとして。

ヴァルカン、あらため生前の名を「アグニス」という。


・・・


或る時、アグニスたちは、とある人物からパーティへの招待を受ける。


アグニスにとって初めての社交パーティで、悲劇は起こった。


・・・


マードック夫妻は、会場に現れた義足の子どもに目を丸くした。さすがの夫婦にも、彼が実の息子であることに気付いたのだった。醜い脚でなくなり、容姿も申し分なく、綺麗に着飾ったアグニスをみたテレア・マードックは、マーカス・マードックの耳元でささやいた。

テレア「あの目元……貴方にそっくりだわ……」
「一体どういうことなの?両脚で立ってるなんて」

マーカス「まさか、生きていたのか?ありえない……」

テレア「ねぇ、もし本当なら、あの醜い夫婦から私たちの子を奪い返さないと!」

マーカス「誰か、使用人長を呼べ!」

使用人長「ここに」

マーカス「あれは一体どういうことだ。なぜ奴らが我々の息子を連れて、この屋敷にいるのだ」

使用人長「一体なにをそんなに慌てていらっしゃるのです?」

マーカス「なぜ生きているのかと聞いているんだ!」

使用人長「はて。どなた様でいらっしゃいますか?」
「可哀そうに。ご子息を二人も亡くされて相当なショックを受けていらっしゃるようですな」

マーカス「ふざけるのもいい加減にしろ!!!お前は若い頃から優秀だったし、長年勤めてきたことを認め、傍においてきた。しかし、主に歯向かうなど許されないぞ!!!」

マーカスは怒鳴りながら使用人長の胸倉を掴む。

使用人長「私には何もわかりませんな」

テレア「そこの使用人!!義足の子をこちらへ連れてきなさい!アナタ、あの汚い鍛冶屋を撃ち殺しなさい!!この屋敷から追い出して!!!」

使用人「テレア様落ち着いてくださいませ!」

テレア「殺さないとアナタを処刑するわよ!」

使用人「ひッ……す、すぐに!!」

使用人は、わなわなと震える手で、テレアから渡された拳銃の引き金を引いた。マードック夫妻は、大衆の面前で無理やり使用人に命令し、彼の育ての親である夫婦ぺウレスとテリッサを、拳銃で打ち殺させた。

またも、自らの手を汚さずに。


それをみていたアグニスは声も出ず立ちすくんでいた。
飛び散った赤い液体を拭うと、父・ぺウレスが自分にくれた短剣を両手に握りしめていた。義足は地面を踏みしめ、鋼の悲鳴が響き渡った。


しかし、その切っ先がマードック夫妻のもとに届くことはなかった。


なぜなら、使用人長がアグニスを抱きしめたからだ。

アグニスには何が起こったかわからなかった。


しばらくして、自分の手に暖かい何かが伝わってくるのを感じた。
使用人長は静かにささやいた。

「坊ちゃま。わたくしは何年もの間、陰ながらあなた様のことを見守ってまいりました」
「これを、受け取ってください。大事な手紙でございます」

そう言い残し、使用人長は静かに彼から離れると、刀の血をぬぐい取って彼の手に返した。

アグニスは涙目で叫んだ。

「僕の父さんと母さんが殺されたんだ!!!!」
「なんで邪魔したんだよ!!!」
「殺したかったのに!!!」
「僕が!!!!」


使用人長は、マードック夫妻もそれまでに聞いたこともないほどの低い声でこう言った。

「黙って私の言うことを聞きなさい。あなた様はここにいなかった」
「早くここから立ち去るのです。わかりましたか?」

「で、でも!」

「返事をなさい!!!!!」

「!」「……は、はい!!!」


アグニスは訳も分からずに、手紙を握りしめてその場から走り出した。数秒後、後ろから銃声が聞こえ、足を止めかけたが、先ほどの使用人長の剣幕が脳裏をよぎり、必死に人のいない方へと走り続けた。

頭の中で、3発の銃声が何度も何度も響き渡っていた。

気が付けばあたりは暗くなり、アグニスはひと気のなくなった町はずれの工房に戻ってきていた。ここまでの記憶はあいまいだが、無意識に歩きなれた道を選び、住み慣れた自宅に帰ることができたのだろう。
走り続けて乾いた涙が、頬に白い筋を作っていた。息を整えようにも落ち着かない気持ちをどうすればいいかわからず、部屋の中を行ったり来たりしていた。

その内にだんだんと呼吸が整い、目の前のものが視界に入るようになってきた。そして、ぐしゃぐしゃに握りしめていた紙の存在に気付くと、椅子に腰かけて、手汗で柔らかくなったところを破らないように気をつけながら、ゆっくりと開いた。

手紙にはこのように書かれていた——




アグニスさま,

あなたさまはこの一家の第一子だいいっしであり、この家の正統せいとう後継者こうけいしゃです。

第一子とは夫婦の間に生まれた一番目の子どものことをいいます。
この国の貴族きぞくの家では、一番目の子が、家をぐ権利を生まれながらに与えられるのです。

あなたさまの戸籍こせきは今も、この一族にあります。
ことのあらましをすべてお話しなければなりません。

いつかは、大人になったあなた様のもとへ直接おうかがいし、わたくしの口から直接お話するつもりでおりました。

いつの日か、争いになってしまうことはわかっていたように思います。
すべては、あなたを国外へ逃がさなかった、私の責任です。
大きくなられたあなたさまをこの目で見た時、わたくしは覚悟を決めました。

・・・・・・
・・・・・・

旦那様と奥様が亡くなられ、第二子であるあなたさまの弟君も病死された今、アグニスさま、あなたがこの家を継ぐのです。

出過ぎた真似をして申し訳ございませんでした。
しかしわたくしは、使用人としての務めを果たしました。わたくしはこれまで、あなたさまのためだけにマードック家にお仕えしてきたのです。

この真実と、この家の成した血に染まった歴史を、あなたさまに託すために。

後の人生は、あなたさま次第でございます。

どうか、悔いのない選択を。

親愛なるアグニス・マードックAgnis Marduk様へ,

果てなき宙の星々があなたさまを御守りすると信じて。





アグニス・マードック。それがヴァルカンの本名だった。


——ヴァルカンは悟った。
名前も知らないあの人は、自分のために犠牲になったのだと。

この時のヴァルカンには、あの人が自分のために何かしてくれたのだということだけはすぐに理解できた。そして、自分の一時の怒りのために、本当の意味で自分を見守り続けてくれた人間の命を奪ってしまったと、ヴァルカンは激しく後悔した。

使用人長の書き残した遺書と一緒に同封されていたのは、正当な相続権を示す書類と、屋敷やこの一族の長年にわたる行いのすべてだった。この一族こそがかつて、育ての親である父親に、人殺しのための武器を造らせ、大金を稼いでいたのだと。


今にして思えば、あの使用人長は最初から……。



・・・



数年後——

ヴァルカンは相続した負の遺産をすべて寄付し、必要最低限の道具だけをカバンに詰め込んだ。もちろん、自分を育ててくれた父の造った道具だけだ。

そして、生まれて初めて自分の意志で足を踏み入れたマードック家の敷地内を見て回ることにした。

屋敷の通路には、自分には想像もつかないほどの豪勢な装飾品や、ありとあらゆる武器が展示され、その武器の隣には、いつ、どの戦争で使われたかというキャプションが細かく記録されていた。

そして、とある刀剣のキャプションには、二人の父が肩を組んで写った写真が飾られていた。その隣には、後から書き加えられたと思われる追加のキャプションが残されていた。

《〇月×日。
今日、優秀な鍛冶職人が愚かにも雇い主に歯向かった。私が最も評価し、信頼を置いていた者だ。説得を試みたが、どうにも言うことを聞く気はないらしかった。実に残念だ。彼の腕は確かだが、愚かにも考える頭がなかったようだ。この私に歯向かったことを、いつの日か後悔することになるだろう。》

ヴァルカンの身体の奥で、燃え滾るマグマが溢れ出すような感覚がして、憎しみを抑えられなくなった。

次第にマグマは冷え固まり、鉄のように物言わぬ石となりはてた。


・・・


「父さん、ごめんなさい。僕は、悪い人間だ」

「父さんも母さんも善い人だ」

「父さんたちは僕のことを普通の子と同じに育ててくれた」

「脚がなくて世話も大変だっただろうに、母さんも父さんも、僕に文句を言ったことなんて一度もなかったね」

「父さん、母さん。赦してくれとは言わないから、一度だけ、悪いことをさせてください」


・・・


ヴァルカンは二人の”父さん”の写った写真を壁からはがし、カバンに入れていたハサミできれいに半分に切った。
そして”父さん”の写ったほうを胸ポケットにしまい、もう片方の”父さん”が写った写真を手に持って、倉庫に立ち寄り、そのまま屋敷の外に出た。

彼の後ろを、透明の液体がどろどろと追いかけていった。

屋敷をでると、ヴァルカンは手に持っていた”父さん”の写真に火をつけ、透明の液体にそっと堕とした。

一気に燃え広がり屋敷の建物に到達し、燃え始めたのを静かに見届ける。

しばらくの間、屋敷が燃え盛るのを呆然と見ていた。

冷たい風が頬を掠めた感覚で我に返った。いつまでもこうしているわけにもいかない。ヴァルカンは付近の住民が気付く前にその場を立ち去った。

顔を隠して駅の方へ向かうヴァルカンの前方から、カンカンカンと頭に響く音が聞こえてきた。その音は人を不安にする音のはずだと思っていたが、その時のヴァルカンにとっては、まるで祝福の鐘の音のようだった。

きっと、宙の星々からの祝福だと思った。

・・・

旧マードック家が火事に見舞われた日の翌朝。

とある編集者に匿名の封書が届いた。
その内容は、瞬く間に世間の話題の中心となり、やがて風化していった。マードック家の汚名はことあるごとに掘り返され、子息が生き残っているという噂も立ったが、誰も彼の行方を知ることはなかった。


・・・


その後の人生は、とても幸せな暮らしとはいえなかった。しかし、それでも、あのままあの国で大きな顔をして家を継ぐよりは、よほどいい暮らしをしたと、ヴァルカンは話を締めくくった。



ヴァルカンは恐る恐るマーズを見る。
彼女の頬に、一筋の光が差したような気がした。

マーズは無表情ながらも笑っているようにも見える、不気味な表情でこう言った。

「大変な人生だったわね。よく家を捨てて生きることを選んだわ。常人にはできない」

「大丈夫。ここはガラクタの終着駅。私だってガラクタの一つなのだから」

「貴方が私の剣に宿ったのは、必然だった」


醜かろうが、美しかろうが、人にとって一番大切なのはその「生きざま」であると、マーズは言った。


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ヴァルカン——その冷たき鉄屑は、
F.T.K. 幹部 第一室 戦争をもたらす火星、
「Marsの第一側近」である。

彼女を守る盾であり、敵をも討つ鉾でもある。

何者にも傷つけられない「最強の武具」であり「最高の鍛冶師」でもあるヴァルカンは後に、このように語っている。


・・・

La Reine

——マーズ様のためならば、私はペンにも、剣にも、金槌にも、斧にも、世にも醜い拳銃にさえもなりましょう。

私は、この組織に命を捧げ、“我らを守るための”全ての武器をきたえます。

彼女なら、“我々”を正しいことのために使ってくださる。
マーズ様は戦争の神でありながら、平和を求める創造主でもある。

物事の善も悪もすべてを平等に見定め、必要とあらば自らが前線に立ち、その手を汚すことも厭わない。あの善人面した醜い武器商人とは違って、自らを悪と認めるその強さに、私は感服したのです。

私の罪に涙した、彼女の憐憫を胸に。

彼女の右手は、星々の物語を書き留めるためにある。
彼女のその手は、私が守らなければいけないのです。

人々は誤解していますが、火にも石にも、
罪はありません。

悪いのは、我らを粗雑に扱う“人間たち”なのですから。




“The Satellites” Mars's Scrap iron 「火星の鉄屑」

The End,


  
制作・著作
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F.T.K. No.01:Mars, the Bringer of War.
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▼登場人物

Vulcan《ヴァルカン》

奇形として生まれ、出産に立ち会った医者からすぐに手術が必要だと言われるも、生後すぐに両親に捨てられる。
屋敷の使用人長がヴァルカンを保護し、夫婦に黙って病院へ連れていく。その後、ある夫婦のもとに預けられた。

Mars

F.T.K. 幹部 “The Planetes”《惑星》「火星:戦争をもたらす者」
ガラクタ星で最初に拾った鉄屑に「ヴァルカン」という名をつけ、生涯愛用した。
ガラクタ星[Scrapyard]:くず鉄置き場

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実の父親:マーカス・マードック(Marcus Marduk)
武器商人。人の命や環境を軽視する。戦争挑発の一翼を担う。
武器コレクター。
実の母親:テレア・マードック(Terea Marduk)
醜いものにひどい嫌悪感を抱く。美しいものに目がないばかりか、迫害主義で、自ら産んだ子どもさえも蔑視する。

使用人長
夫婦に仕える屋敷の使用人長。ヴァルカンを憐れみ、養子に出したあとも彼の様子を見守り続ける。

ヴァルカンが養子に出された数年後に生まれたマードック家次男。美しい容姿ではあったが病気がちで、若くして亡くなってしまう。

養親(育ての親):父・ペウレス,母・テリッサ
生まれていればヴァルカンと同い年くらいの子を授かっていたが、死産になってしまい、それ以来不妊に悩まされていた。

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アグニス・マードック(Agnis Marduk)

ヴァルカンの生前の名。武器商人の家系の長男。
戦争を娯楽と見なしていた実の父親を憎み、屋敷に火をつけ逃亡した。
その後、行方はわかっていない。

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