誰が消耗品やねん
飛んで火に入るリビングデッド
朝、駅に向かう歩道で「それ」とすれ違った。
足がほとんど上がっていない。重力に身を任せ、前傾姿勢のまま慣性だけで前進している男だ。
あれはリビングデッドだ。
顔を見て、思わず二度見した。
泳ぎが苦手な小学生が、息継ぎなしで25メートルを泳ぎ切り、プールサイドにしがみついた瞬間の顔をしていた。
布団から出て一時間も経っていない人間が浮かべる表情ではない。
一瞬、「朝っぱらから熱中症か!?」と焦った。
昨夜、深夜まで残業という名の無制限デスマッチを戦わされたのか。
はたまた、帰宅早々、嫁との冷戦という名の過酷な極地へ移送されたのか。
一晩中サウナのような部屋で寝かされ、蚊一匹に眠りを分割払いさせられ、朝起きた瞬間、「今日、月曜日か」の六文字だけでやる気とHPをゼロにされた男。
そんな様子だった。
メジャーリーグでも、ピッチャーは100球投げたらベンチに下げられるのが常識だ。
だが、目の前の男はどう見ても、連投で300球投げさせられているエースだった。
あれはエースじゃない。
消耗品だった。
「大変だなぁ、あのピッチャーも……」
そう思いながら駅のウィンドウに目をやると、さっき見たリビングデッドと同じ顔の男が映っていた。
目が合った。
……俺だった。
