倒れないリクライニング
他県へ出張することになった。
移動は高速バスで、約四時間。
席に着いてしばらくすると、前の席に男が座った。
体つきのいい、いかつい男だった。
黒いスーツというよりは、少し崩した格好で、黒の残クレのアルファードあたりが似合いそうな雰囲気。
座った瞬間、これは思い切りリクライニングを倒されるな、と思った。

狭い座席で、目の前の背もたれが自分の膝の近くまで迫ってくる図を、勝手に想像した。
ついてない。
そう思いながら、荷物を膝の上に置き直した。
バスが走り出す。しばらくして、男が身じろぎをした。
来るな、と身構えた。
だが、倒れなかった。
出発から一時間経っても、二時間経っても、男の背もたれは同じ角度のままだった。
結局、四時間、目的地に着くまで、その席は一ミリも倒れなかった。
バスを降りるとき、男の背中をちらりと見た。
特に何を話すわけでもなく、そのまま人混みに紛れていった。
見た目で決めつけた自分を 反省した。
心の中で、土下座して謝った。
出張の内容よりも、この四時間の方が、なぜか記憶に残っている。
