見出し画像

アニメ映画『野生の島のロズ』感想 擬人化されたテーマ・メッセージ

 不満はありつつも、しっかりと感動させてくれる一級品作品でした。アニメ映画『野生の島のロズ』感想です。

  輸送中の事故で、大自然に覆われる無人島に流れ着いた最新型のアシストロボット・ロズ(声:ルピタ・ニョンゴ)。偶然、起動スイッチを押され目覚めたロズは依頼主を求めて野生動物の中を彷徨い続ける。学習機能により動物たちの言葉を理解したロズは、島の生活に順応し始めるが、ある時、アクシデントで雁の巣を潰してしまう。残された卵を孵化させたロズは、ひな鳥から「ママ」と呼ばれ、このひな鳥を育てることを自分の仕事としてプログラムする。ロズはひな鳥を「キラリ」(声:キット・コナー)と名付け、キツネのチャッカリ(ペドロ・パスカル)ら島の動物たちの助けを得ながら、キラリが渡り鳥として飛び立てるまで見届けようとする…という物語。

 アメリカの児童作家ピーター・ブラウンが著した児童小説『野生のロボット』を原作とした、ドリームワークス製作の長編アニメ映画。監督は『リロ&スティッチ』や『ヒックとドラゴン』のクリス・サンダースで、アカデミーの長編アニメ賞でも本命視されている評価の高い作品です。

  前評判の高さと、とにかく泣けるとの声の多さに押されて観てきたのですが、まず、映像表現の多彩さ、美しさは圧倒的なものでした。動物たちを擬人化したアニメーション作品の最高峰更新じゃないでしょうか。

 動物を擬人化した際、どうしても動物が人間の仕草をする動きで行動や心理を表現しがちですが、本作の動物たちは、それぞれの生態的特徴を完全に再現した動きでありつつ、きちんと行動や心理を表現しているんですよね。しかも、本当に多くの種類の動物を登場させてそれを仕上げているから驚きです。どれだけ動物たちの生態を研究し尽くしたのかという点も凄まじいし、それを手描きにしろCGにしろ、動きの再現を動画に起こす作業も途方もない作業であることが想像されます。
 序盤の大量の蝶、中盤の渡り鳥の群れ、吹雪の冬越えなど、自然に起こる美しさや恐ろしさといったものを最上級の動画で堪能出来るわけですが、それでいて加工された人工のものという印象を持たせないのは、やはりその自然描写を徹底的に研究しているからなんだろうと思います。

 ロボットであるロズに感情が芽生えるとか、弱肉強食の関係でしかないはずの動物たちに連帯の心が生まれるのとかは、まあベタな筋ではあるんですけれども、それこそ「擬人化」されたテーマなわけで、明らかに人間社会へのメッセージとして描かれているんですよね。
 島全体の危機に瀕した際、熊のソーン(声:マーク・ハミル)が、いがみ合う動物たちに対して「一時休戦だ」と呼びかけるのは、そのまま現実の各国首脳へ向けられているものになっています。
 小さい身体に生まれて、普通であれば生き残れなかったはずのキラリが、ロズたちの保護によって、その特色を伸ばして役割を得る様は、弱肉強食社会ではなく、多様性社会によって生まれる可能性を示唆しており、ここも明らかな人間社会への教示となっているように思えます。
 それが昨今のいわゆる「ポリティカル・コレクトネス」として、説教臭く感じられてしまう人もいるかもしれませんが、現に傍若無人がまかり通っている2025年時点での現代を見れば、これくらい正論を垂れ流さなければ正気を保てないという悲鳴のようなメッセージにも感じられます。

 ただ、リアルな動物と自然の描写が素晴らしいが故に、そのテーマの「擬人化」と、齟齬を生んでいる側面も感じてしまう部分もありました。動物たちが連帯するのは、人間社会へのメッセ―ジとして良く出来ていますが、その後、平穏になった際にも連帯が続いているように見えるのは、自然描写として違和感を抱いてしまうものに思えます。
 あの後ですぐに弱肉強食を描いては、さすがにブチ壊しになってしまうので難しいのでしょうけど、本来の自然の掟であれば弱肉強食は基本スタンスであり、それも含めての連帯、共存、共生の姿だと思うんですよね。野暮な指摘であることは重々自覚しているのですが、どうしても気になってしまいノレない自分を無視できませんでした。

 自然描写との齟齬だけでなく、対角線上に位置する、ロズやその他の機械描写にも少なからず違和感を抱いてしまいます。もちろん、ロボット描写としてのロズもかなりのレベルにあり、SF的な面白さも堪能出来るものです。だけど、クライマックスで登場するロズの回収に来たロボットのヴォントラ(声:ステファニー・スー)が感情豊かに喋っており、プログラミングされた話し方で本当に感情があるわけではない、と説明していますが、それ管理するロボに必要な機能か? と疑問に思いますよね。それなら、人間相手に働くロズに必要な話し方でのはずと感じてしまいました。要するに悪役らしい演出のための不自然な設定になっているように思えたんですよね。

 ロズとキラリの交流はもちろん感動的なものですが、言えなかった想いを伝えるというクライマックスも、ちょっと前フリ的に足りない気もします。これは欧米的な価値観との差異ではありますが、ロズもキラリもチャッカリも、基本的に言いたいことは何でも言葉にして伝えているコミュニケーションなんですよね。それでぶつかり合って、解り合ってということをちゃんと繰り返しているように見えたから、クライマックスで言えなかった言葉を出されても、ちょっと「でしょうね」というものにしかなりませんでした。

 そして、この欧米的コミュニケーションを行うロズの姿が、無感情からの変化というものを、ちょっと弱めているように思えます。段々と感情が生まれつつあるというよりは、結構早い段階で情が生まれているようにみえたんですよね。
 ロズのモデルに、宮崎駿『天空の城ラピュタ』に登場するロボット兵があるのは明らかだと思いますが、自分としてはあれこそが「無感情」の中に生まれた「感情」の表現だと思っています。
 滅びたラピュタの中で、小鳥たちと戯れるロボット兵には何も感情がないはずなのに、見ている人間側が感情を読み取ってしまうものだったと思うんですよね。それを期待していた自分としては、やはり比較してしまうし、ちょっと感情過多に思えてしまうものでした。

 とはいっても、やはりキラリが飛び立つシーンでは、視界がぼやけるほど潤んでしまうし、ロズとチャッカリ、その他の動物たちの絆にも胸を熱くさせるものがあります。巣立ちを描いてはいるものの、その後も関係性は続くという結末は続編を示唆させるというよりは、現代人の親子関係を模しているようにも思えます。つくづく長けた「擬人化」表現の作品であり、とても巧みなアニメ映画でした。


いいなと思ったら応援しよう!